日本を代表するSF作品になるであろう、「天冥の標」のススメ
現在、間違いなく国内SF界を代表することになるであろう壮大なシリーズ作品が刊行中であることをご存じでしょうか?SFファンなら当然知っていることと思いますが、もしかしたら一般的にはあまり知られていないかもしれない…。SFファン以外の方々にもぜひ読んでいただきたい!ということで、ここでご紹介させていただきたいと思います。
作品名は「天冥の標」。著者は小川一水。全10巻が予定されており、現在は6巻までが出版されています。…全10巻といいながら、1巻からPart1、Part2の2本立てで、6巻に至ってはPart3まであるw 現状、6巻が終わった段階で9冊でている状況です…。が、今から1巻を読み始めればまだまだ追いつけるはず!というか、全10巻出てからだと冊数多すぎて手を出しにくくなりそうなんで、手を出すなら今のうちかも。
さてこのシリーズ、1〜5巻まで各巻によってかなりバラエティーに富んだ内容になっています。ジャンプノベルからデビューし、硬軟交えてさまざまなSF作品を書いてきた小川一水さんの集大成的なシリーズと言えるでしょう。それぞれどんな話かと言いますと…。
・1巻:
遠未来のファンタジー感あふれる世界を舞台にした、圧政に対する革命運動の一部始終。
・2巻:
一転して、現代の地球で猛威をふるう疫病のお話。病原菌の封じ込めに取り組む医師と、病気に侵された少女の物語。
・3巻:
またまた一転して、太陽系宇宙を舞台にした海賊討伐のお話。
・4巻:
宇宙娼館を舞台に、性行為の究極の形である「マージ」を目指すお話。青年と「性愛を持って奉仕する」ものによる官能(!)小説。
・5巻:
地球外の惑星における農家のお話。農業に賭ける父と、都会に出たい娘のお話。この巻の半分が「断章」。
どれも1つの巻だけでも独立して楽しめる内容になっており、特に2巻はエンタメ小説として純粋に楽しめる作品です。罹患者で隔離される存在となった少女の様々な心の動きと、その少女を助けながらも、病気の封じ込めのために現実的な手段を講じざるを得ない医師の悲痛。また、罹患者に対する社会の反応という現実もあり、なんともいえないやるせなさを感じさせます。
…が、こうしたミクロなエピソードの背景には、気が遠くなるほどに遠大な物語が用意されています。そんな背景の大部分が明らかになるのが、5巻の半分を占める「断章」。いわゆる「生物」とは異なる生命体「ノルルスカイン」の誕生から始まるお話です。このエピソードの面白さといったら!
お話の規模は、太陽系とか銀河系などといったレベルではなく、まさに全宇宙規模で、時間の経過も億年単位が当たり前。とある惑星でノルルスカインの意識が発生し、それが知識を得て拡散していくまでのお話に知的好奇心を揺さぶられます。もし我々が神と呼ぶ、人類を俯瞰する存在がいると仮定した場合、それはノルルスカインのような発生の仕方をするのかもしれない…と想像してしまいました。ある意味では、神(のような存在)をSF的な視点から仮定したらこうなる、という思考実験といるかもしれません。とにかく、それくらいとんでもない規模のお話なのです。
また、同じ断章にて、「覇権戦略」に基づいて拡散していくとある種族のお話が展開されます。覇権戦略とは、ある種族が全宇宙に拡散して覇権を征するための戦略で、作品内ではワープ航法などの超光速の移動手段がないことが前提となっています。キーワードは「生命の短さ」。一つの個体が生きる年数が100年程度だとした場合に、超高速移動ができない以上、他の知性体のいる星に移動するには宇宙は広すぎる。この条件の元、全宇宙に拡散しはじめた種族がどのような特徴を持つのか…。こちらもまた、どエラいお話になっております。
そして、2〜5巻で人類と太陽系宇宙というミクロな世界(太陽系ですらミクロの世界だ!)のお話と、5巻で明らかになった全宇宙のお話が、6巻でついに直接的に結びついていきます。過去に登場した様々な勢力の諸々の思惑により宇宙戦争が勃発するのですが、その背景にはやっぱり、「覇権戦略」を押し進めるあの種族の存在がおりまして…。この巻での戦争描写は、宇宙を舞台にした戦争ならではのものなっており、戦術も地球での戦争とは大きく異なっています。例えば、会敵から直接の戦闘状態に陥るまでに数日掛かり、それまでにミサイルを先行させておく、電子戦に備える、などの描写は宇宙戦争ならでは。個人的には、以前にアニメ「モーレツ!宇宙海賊」を見ていたことで、戦争シーンをイメージがしやすかったように思います。もし機会があれば、本作を読む際にこちらも見ていただきたいなぁw
そして6巻が終わった段階で、太陽系人類の文明は大きな岐路に立たされます。いったいどういうお話になっていくのかは、これから先のお楽しみ。この壮大かつバラエティーに富んだSF大作をぜひ手に取っていただき、先を想像しながらワクワクする喜びを堪能していただければと思います。 以上、簡単にではありますが、「天冥の標」シリーズの紹介でした。まずは1巻、または読みやすい2巻だけでもよいので、手にとってもらえれば嬉しく思います。
天冥の標?: 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河 (ハヤカワ文庫JA)
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