「となり町戦争」 三崎亜紀

ある日、突然にとなり町との戦争がはじまった。
だが、銃声も聞こえず、目に見える流血もなく、人々は平穏な日常を送っていた。
それでも、町の広報紙に発表される戦死者数は静かに増え続ける。
そんな戦争に現実感を抱けずにいた「僕」に、町役場から一通の任命書が届いた…。
見えない戦争を描き、第17回小説すばる新人賞を受賞した傑作。
文庫版だけの特別書き下ろしサイドストーリーを収録。

小説に何を期待するかによって,この作品の評価は大きく異なってくるでしょう。
そして私の場合,この作品を楽しむことはできませんでした。


この作品のタイトルは「となり町戦争」で,
冒頭もいきなり「となり町との戦争がはじまる」という一文から始まります。
そこで私はまず,「となり町との戦争って,どういう事情で勃発して,
どのように戦争が実施されるんだろう?」と疑問に思いました。
しかし,この作品で戦争の背景などについては一切語られません。
「戦争」はあくまで抽象的な概念として用意されているだけで,
作品の中心は戦争をめぐる北原の感情にあります。
具体的な戦争の姿は,結局最後まで描かれることはありません。


いや,戦争について考えたい人が読んだのだとすれば,
この作品のあり方にも納得はいくでしょう。
でも,私のように小説にエンターテイメント性を求めている読者の場合は,
この構成では納得できません。
だって,「となり町戦争」なんていう興味をそそられるタイトルを持ってこられたら,
どうして戦争が起きたのか,どうやって戦うのか,などなど,
その辺のディテールがどう描かかれているかが気になるじゃないですか。
戦争が起きた原因がとても理路整然と説明されていたり,
またはあまりにも突拍子もなかったり,
といった筆者のアイデアに期待して読み進めてしまうじゃないですか。
それがまったく説明されないで終わってしまうというのは,
ミステリを読んでいて犯人が最後までわからない,というくらいに納得いきません。


もちろん,この作品で筆者が訴えたい主題からを考えれば,
「となり町との戦争」がどういうものであるかは瑣末な問題なんだと思います。
でも,主題なんてこっちにはどうでもいい(とまでは言わないけれど…)わけで,
疑問がまったく解消されないことにストレスを感じてしまいました。


とまあ,私はこんな風に感じたのですが,
それは私が小説にエンターテイメントを求めているからです。
反戦論としてこの筆者の主張が面白いかどうか,
また筆者の主張が小説を通してうまく伝わっているかと言う点での評価は,
私にはできないですね。ここでそれをする気もないですし…。
まあ,すばる新人賞を受賞したことを考えれば,
その辺はうまくいっているのかもしれません。
ただ,エンターテイメント性を求めて読む作品ではない,
と言うことだけは確かでしょう。