エピソードとストーリーについて。「たまこま」と「はがない」の感想

■物語の二つの形式 「ストーリー主導型」と「エピソード主導型」

個人的に、物語の形式は二つあると思います。極端な形での分け方ですが、一つは「ストーリー主導型」、もう一つは「エピソード主導型」です。


一番基本的で、皆が「物語」と聞いてイメージするものが「ストーリー主導型」です。これはストーリーが一本の線のように、始まりから結論に向かって一直線に進んでいくという形式。これらの作品では、作中のエピソードの一つ一つは結論に向かうために用意されていて、エピソードは結論に向かうために用意されます。ミステリ作品なんかはこの典型で、「事件の解決」という結論に向けて、推理のための証拠集めがエピソードとして描かれます。


そしてもう一方は、「エピソード主導型」。結論に向かってエピソードを描くのではなく、あくまで一つ一つのエピソードを描くことが目的となる作品群です。一つ一つのエピソードに物語の中での意味は必要なく、ただただ魅力的である(笑える、リアリティーがある、キャラが可愛い…)ことこそが追求されます。


「空気系」「萌え4コマ」などと呼ばれる作品もエピソード主導型の典型です。4コマというフォーマットは多くの場面を描くことに適していますし、また結論に向かわない…ということを読者が納得しやすい、ということもあるのでしょう。ギャグ漫画をのぞいて、やはり通常のフォーマットだと読者は「ストーリー主導型」のような結論を求めてしまう…という傾向はあると思うので。


また、萌え4コマの代表的な作品「あずまんが大王」「けいおん!」が卒業という形で終わったのも、意味のある結論を必要としない「エピソード主導型」ならではだと思います。物語の終わりにあるのは結論ではなく、ただ時間が過ぎ去ったということだけ。それでも卒業式は、今までのいろいろなエピソードが思い出され、また読者にとってもキャラクター達との別れのエピソードとなり、意味などなくても感動があるのです。…「けいおん!」が卒業で終わっていないように見えるのは、大人の事情というものですw


…さて、物語にこの2つの形式があるという私の認識を前提にしたうえで、2013年に放送されたアニメ「たまこまーけっと」と「僕は友達が少ない next」について感想を書きたいと思います。私自身は、アニメでは「エピソード主導型」の作品を好む傾向があって、とくに「あずまんが大王」と「けいおん!」はオールタイムベストというか愛しているというか、好きなシーンに関してはセリフまでソラで言えちゃう気持ち悪さ!そんな「けいおん!」スタッフが制作するという「たまこまーけっと」には、大いに期待をしていました。…が、個人的にはどうしても納得のいかない個所もあったのでした。


■もっとエピソードを大事にしてほしかった「たまこまーけっと

たまこまーけっと (1) [Blu-ray]

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たまこまーけっと」は、「エピソード主導型」の最高峰とも言える「けいおん!」を作ったスタッフが挑む「ストーリー主導型」の作品、という印象を持っていました。「けいおん!」同様に可愛らしい女子高生を中心に描いていますが、異国の王子の存在が序盤で示されるなど、先の展開を意識して作られたシーンがいくつもあります。


とはいえ、そこは「けいおん!」チーム。キャラクター達のなんてことのないエピソードもきちんと描き、たまちゃん、みどちゃん、かんなの3人娘は回を重ねるごとに可愛らしさを増していきます。がちがちにストーリーだけを描くような作品ではなく、寄り道をしながら最終回に向かっていく、ゆる〜い「ストーリー主導型」になっていました。…が、自分の好みなので仕方がないのではありますが、やっぱりストーリーいらねぇなぁ…と思ってしまうシーンが随所にありまして。その中で一番違和感があったのが、最終回前に出てきた、商店街のメダルのポイントを集めているエピソードです。


このエピソード、過去の話でたまちゃんがメダルのポイントを集めている、またはメダルをもらえることを心待ちにしている、という描写がなかった中で、突如出てきます。それも、王子の后に云々、という話で商店街中が盛り上がっているときに、ものすごく唐突に出てくる。このエピソードはもちろん「たまちゃんの商店街に対する愛着」を示すものですが、エピソードが持つ役割が明白なうえに唐突に出てくるので、どうしても浮いてしまうというか、わざとらしく見えてしまいます。このエピソードがなくても、たまちゃんの商店街への愛着は過去のエピソードで表現されているわけで、やっぱり不要だったんじゃないかなと思うのです。


結局、このメダルのエピソードを経て、最終回でたまちゃんの商店街への想いが語られて大団円。いやま、いいのですけれども、ラストに向けて話をまとめるだけのエピソードってのは魅力がないなぁ…、と思ってしまったのでした。特に、ストーリーに縛られずに、魅力的なエピソードをたくさん作ってきた「けいおん!」のチームであるだけに、ストーリーから逆算して作っただけのエピソードを作ってほしくなかった。「結論」へ向かうためのエピソードよりも、3人娘+デラちゃん+商店街、という日常のだらだらした描写のほうが魅力的で、最後までそれを見ていたかった。


■徹底的にエピソードが描かれる「僕は友達が少ない

僕は友達が少ない (MF文庫J)

僕は友達が少ない (MF文庫J)

一方、同じ時期に放送された「僕は友達が少ない next」は、徹底的にエピソードを描く作品でした。この作品、原作であるライトノベル僕は友達が少ない」の構成がとても特殊で、1冊の中で10以上のエピソードが描かれます。言うなれば時系列に描かれるショートコント。連作短編とも異なり、1編に一つの「結論」があるわけではなく、もっと言えば1冊の中に結論めいたものがなくてもいい。まさに、小説媒体で「エピソード主導型」の作品を描くための構成と言っていいでしょう。私自身、この形式で繰り返される漫画的なキャラクター達のドタバタ劇がどんどん面白くなってしまい、7巻まで一気読みしてしまったのでした。


そんな「はがない」(本作の略称)のアニメは2011年に1期が放送されましたが、正直に言えばあまりうまくいかなかったと思っています。主人公と夜空が幼なじみであるという「ラブコメらしい」設定を結論として重視した演出で、ばればれの伏線で見え見えの結論へ至る稚拙な作品…という印象になってしまいました。しかし、2013年に放送された第2期である「はがない next」は、原作者である平坂読がシリーズ構成に入ったことで大きく変わります。それこそ、遊園地に行ってジェットコースターに乗る、妹の友人(?)が家に泊まりにきて大騒ぎする、などの数々のエピソードが本気で描かれます。原作読者としては、まさにこのくだらなくも愉快なエピソードこそを楽しみたかったのだ!と、大いに納得の内容でした。


またこの作品、エピソードの積み重ねによって、主人公の所属する隣人部の面々の「友達になってしまっている感」がうまく表現されている作品だとも思うのです。2期のラストのメタフィクション的な結論は、無駄なエピソードを積み重ねがなければ説得力を持たないでしょう。ストーリーの緻密さやリアリティーではなく、漫画的なエピソードの積み重ねによって、独特の説得力を持たせた、不思議で面白い作品だなぁと思うのです。


■エピソードはストーリーのおまけじゃない!

いろいろと書いてきましたが、結論としましては、ストーリー上の役割を持つだけのエピソードってのは魅力的じゃない、ということに尽きるのです。せっかく設定も序盤のエピソードも楽しいのに、話をたたみにいく段階で急に魅力がなくなった…と感じたことがあるのは、私だけではないと思います。一時期のライトノベル作品にはこのパターンが多く、話をたたむためだけの取って付けたような「いいお話」でゲンナリする…ということが何度もありました。これらは、「物語=ストーリー主導型」という認識ゆえに、無理に結論を付けようとして、結論へ向かうためだけのつまらないエピソードを描くから発生する悲劇だと思うのです。


しかし、「萌え4コマ」というフォーマットに続き、平坂読氏が大胆なフォーマットの小説を成功させたことで、最近は徐々に状況が変わってきていると思います。「4コマ小説」を売りにする「GJ部」というライトノベルもあるみたいですしね。ストーリーに縛られない「エピソード主導型」だからこそ描ける、魅力的な笑い、キャラクター、エピソード…というものを、もっともっと見ていければなぁと思います。