2006年下半期読んだ本 ベスト5

今年ももうすぐ終わりということで,この下半期に読んだ本のうち,
特に面白かった本のベスト5を紹介します。
いや,2006年全体でやればよいのですが,
上半期のものは読んでからちょっと時間がたってしまっているので,
並べて評価するのは難しいかなぁと。
ちなみに,ここで紹介するのは2006年の下半期に出版された本ではなく,
あくまで私が読んだ本,ということです。
あと,「よつばと!」は6巻出ていますが,
上半期に読んだ作品として対象外にしています。


5位 アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)


どの作品も安定して面白い伊坂氏の作品ですが,
長編ではこの作品が一番インパクトがあったかもしれません。
とにかく「騙された!」の一言に尽きますね。
「現在」の川崎の正体を知ったときは本当に驚きました。
全然予想していなかっただけに。


伊坂氏はどちらかと言うとキャラクターを書くのがうまい印象ですが,
この作品は断然ストーリーが売りの作品でしょう。
ちなみに,同じく下半期に読んだ「砂漠」のほうはバリバリのキャラクター小説。
ベスト5には入れませんでしたが,伊坂氏はこれくらい思い切って
キャラクター小説を書いてもいいと思います。


あと,この作品は最近文庫化されています。また,今度映画化もするらしい…。
これをどうやって映画化するか,ちょっと興味ありますね。大丈夫なのかなぁ?


4位 マルドゥック・スクランブル 冲方丁マルドゥック・スクランブル―The Third Exhaust 排気 (ハヤカワ文庫JA)


とにかくもう,ブラックジャックのシーンに圧倒されました。
ブラックジャックのシーンは電車で読んでいたのですが,
あまりに熱中していたもので,一駅乗り過ごしてしまいましたよw
また,私が今まで読んだ作品の中ではかなりハードなSFだったんで,
話題のカジノシーンまで読めるかどうかちょっと心配だったんですが,
カジノに至るまでの話も楽しめました。


基本的には読者置いてけぼりな感じなので,
なにを言っているかよくわからんところもところどころありますが,
とにかく勢いで読んでいけば楽しめる作品だと思います。


3位 絶対,最強の恋の歌 中村航絶対、最強の恋のうた


「I LOVE YOU」掲載の短編「突き抜けろ」を含めて一本の小説にした作品。
ま,まさか「突き抜けろ」の前後の話を読めるとは…。
タイトルのとおり,恋愛の話がメインになっているので,
「突き抜けろ」から中村航に入った人にはちょっと読みにくい作品ではあります。
しかし,そこを我慢してでも(?)最後を飾る「富士に至れ」を読むべきです!
読み進めていて,まさかこんなラストシーンが待っているとは
予想もしていませんでしたよ。
中村氏の作品には奇妙だけれどもユニークなエピソードが多いのですが,
「富士に至れ」は「突き抜けろ」で出てきたエピソードをうまく使って,
見事な着地を決めてくれました。
…逆に,短編で「突き抜けろ」を読んでいない人にとっては,
「何でラストがこんな話なの?」と思われてしまいそうですがw
今後は私も,何かあったときは眼鏡外そうと思います。。。


2位 アイの物語 山本弘アイの物語


この作品に含まれる中編,「詩音が来た日」と「アイの物語」は
私の中にある「AI」の概念を見事に覆してくれました。
書評家の豊崎由美氏が帯に「感動した」と書いていますが,
個人的には「感動」というよりも,ただただ驚かされっぱなし,という作品でした。


山本氏は作品を通じて主張したいことが明確にある方だと思うのですが,
この作品はその主張が見事に物語に反映されています。
なので,物語として読んでも面白いし,その主張に触れるのもまた楽しいです。
同じく下半期に読んだ「神の物語」は,どちらかと言えば主張の部分が強すぎる
印象があったので,作品としての完成度は「アイの物語」が一枚上でしょう。


ちなみに,会社の同期にこの本を貸したところ気に入ってくれたようで,
最近は自分の感情を虚数で表現するのがちょっとしたブームになっています…。


1位 海の底 有川浩海の底


突っ込みどころは満載です。
ラストにしても「やりすぎだよ!」と思わず突っ込まずにはいられません。
もう一回読み直したら,評価がガラッと変わる恐れすらあります。
…それでも,この作品を読んでいるときに感じた興奮だけは確かなもので,
まさに下半期の第1位にふさわしいものだったと思います。


機動隊の話と潜水艦内の話が交互に進んでいく形式で,
登場人物は多く,さらに多くのイベントが発生します。
そのため,このページ数では書ききれないくらいボリューム感のある
内容になっていますが,少ないページ数の中でもイベント一つ一つが
印象に残る形で描かれていて,物足りなさをまったく感じさせません。
おそらく,メインの登場人物以外のサブキャラクター達を
非常なまでにフェードアウトさせてしまい,
物語の本筋とは関係のない枝葉末節にあたる部分をそぎ落とすことで,
これだけのボリュームある内容をこのページ数で描くことができたのでしょう。
また,それによってとても話のテンポが良くなっていているので,
読み始めるとページをめくる手が止まりません。
私は時間を忘れて熱中してしまい,寝不足で出社することになりました。。。


「空の中」で注目を浴び,「図書館戦争」で有名になったこともあり,
その途中で出版されたこの作品は,世間的にそれほど評価されていないように思います。
その一方で,私以外にもこの作品を高く評価している人は結構いるようです。
「図書館で本を借りよう!〜小説・物語〜」さんとか)
たぶん,評価が分かれるのは自衛隊が出動して以降,
話が急速に収束してしまう部分ではないかと思いますが,
私はこの展開は素晴らしかったと思っています。
この作品の機動隊のパートでは,メインは「レガリス」との戦闘ではなく,
あくまで自衛隊をどう引っ張り出してくるかになっています。
そのため,自衛隊を引っ張り出した時点で話が収束に向かうのが自然ですし,
またあっさり収束させることによって機動隊の無念を印象付けています。
そして,無念の中で機動隊員の滝野が語る次のセリフ(P394)はあまりにも格好良い。
「次に同じようなことがあったら今より上手くやれるようになる,
そのために最初に蹴つまずくのが俺たちの仕事なんだ」
このセリフ,滝野の無念ややりきれなさを感じるとともに,
それでも職務を全うしなければならない厳しさなどが,見事に表現されています。
この辺りの滝野のセリフを言わせるためにも,
やはり自衛隊投入以後の展開は作品のとおりであるべきだと思います。
「踊る大走査線」を見ていた人は,この作品を見たらどう感じるんだろう…。


あと完全な蛇足ですが,著者が自分で作り出したキャラクターに
萌え狂いながら書いている点も,この作品の勢いにつながっているように思いますw
有川氏の他の作品を見ても,
自衛隊とかのかっこいいお兄ちゃんに萌え狂っているのが見て取れますw
…ちなみに,有川氏は女性作家です,一応。。。




この下半期,最初の目標は「脱,大森望!」ということで,
書評家の大森望氏の薦める以外の作品を読んでいたんですが,
結局は外ればかりを引いて挫折してしまいました。
で,ベスト5には大森氏経由で読んだ作品が3作あったりして,
全然目標達成できませんでしたw
まあ,趣味の合う書評家を見つけているってことは,
本を読む上では幸福なことなんでしょうね。
今後も,大森望推薦本はちょくちょく読んでいくことになりそうです…。


そんなわけで,これが今年最後の更新になります。
8月から書き始めて,こんなにちゃんと続くとは思っていなかったのですがw
この日記をどれくらいの人が見てくださっているのかはあまりわからないのですが,
最近,「ページビュー」の回りはちょっとだけ良くなっている気もします。
これからも不定期にですが更新していきますので,よろしくお願いします。