「神は沈黙せず」 山本弘

幼い頃に理不尽な災害で両親を失って以来、
家族で信仰していた神に不信感を抱くようになった和久優歌。
やがてフリーライターとして活動を始めた彼女はUFOカルトへ潜入取材中、
空からボルトの雨が降るという超常現象に遭遇する。
しかしこれは、「神」の意図をめぐる世界的混乱の序章に過ぎなかった―。
UFO、ボルターガイスト、超能力など超常現象の持つ意味を大胆に検証、
圧倒的情報量を誇る一大エンタテインメント。


前回読んだ山本弘氏の作品「アイの物語」では,
「人間の心を持っている」という鉄腕アトム的なロボット観を
「ロボット(アンドロイド)が持つ感情は,人間とは異なる」という概念により,
見事に壊してしまいました。
常識的な考え方に縛られていた私は,この考え方にびっくりしつつも,
よく考えてみれば確かにそうかもなぁ,とやけに納得させられてしまいました。
そして今回読んだ「神は沈黙せず」でも,山本氏は私の常識を壊してしまいます。
この作品では,超常現象を科学的に論じることで,
「オカルト=非科学的」という考え方を打ち破っています。


もちろん,胡散臭い新興宗教のようなオカルトについては否定されています。
ただし,大勢の人間が見ているなどにより,信憑性が確保されている場合には,
頭ごなしに否定する方がよほど「非科学的」だと,山本氏は主張していると思います。
つまり,科学的に証明しきれないからといって「ありえない」と
決め付けてしまう姿勢は,何も検討しないでトンデモ新興宗教を信じてしまう姿勢と
ほとんど変わらないということです。


さて,物語についてですが,
世界各地で発生している超常現象を分析していくことで,
「神」の存在を明らかにしていくという,とんでもない話です。
世界各地で実際に起きている超常現象の話などは,情報量が多すぎて
読んでいて少し疲れてくることもありますが,
この作品の場合,そのくらい情報量があったほうが効果的かもしれません。
実際,作中に登場するさまざまなウンチク話が
神の真実を解く鍵になっていて,
最終的には「ああ,なるほど」と納得させられてしまいました。
超常現象とかオカルトを扱っているにもかかわらず,
とても理論立てて説明されているため,ある意味ではミステリとして
読めてしまうかもしれませんね。
(ただ,電子マネー(VP)が流通している描写など,
政治や経済に関する話は不要だったかも…)


ただし,とても面白い作品なのですが,物語性は少し薄いように思います。
どちらかというと,山本氏の考え方を披露しているような感じかも。
特にキャラクターの魅力という点ではイマイチで,
やけに合理的な考え方だったり,やたらと議論しまくったりw
少なくとも私は,彼らに感情移入して読むことはできませんでした。
その点,「アイの物語」ではテーマがうまく物語として語られていているため,
小説としても楽しめたように思います。
…まぁでも,この作品の場合は思い切って物語性を排除しているからこそ,
面白くなっているのかもしれませんね。
いずれにしても,かなり楽しんで読むことができました。


ちなみに,個人的に面白かった話をネタバレしない範囲で言いますと,
「地球の中心など,本当は存在しない」という部分です。
神の存在を説明する際にちょっと出てくるだけの話なのですが,
なんかこの発想は妙に面白かったなぁ。現実感があるような,無いようなで…。
どういう意味なのかは,実際に読んでみるとわかると思います。