「GO-ONE」

『ジョッキー』の著者が描く青春疾走小説。
若手騎手・一輝は持ち前の「豪腕」で猛追をかける戦法を武器にしていた。
しかし、落馬事故から馬に乗れなくなってしまい…。
10万部突破『ジョッキー』の著者が疾走する青春を描く。文庫書き下ろし。


曲がりなりにも小説のレビューサイトをやっている人間として,
この作品を「面白い」と言ってしまうことにはかなり抵抗があるのですが,
で,でも最終的には楽しんでしまった…。
作品の完成度としてはアレな感じで,
競馬を見ない人にはまったくお薦めできない問題作。
松樹剛史氏の「GO-ONE」です。


松樹剛史氏のデビュー作「ジョッキー」は,
競馬好きの読書好きであればとりあえず読んでおけという名作です。
ペース配分や馬との折り合いや騎手同士の駆け引きなどを織り交ぜたレースシーンが見所で,
他にそれほど類書がないであろう「騎手小説」を競馬ファンでも納得できるレベルで描いています。
私は過去に田原成貴のエッセイを読んでいることもあり,
レース中の騎手心理とか駆け引きとかにやたらと関心を示してしまうので,
「ジョッキー」のレースシーンは本当に楽しく読めましたねぇ。


ただその一方で,競馬シーン以外の描写には一抹の不安を抱いていました。
なんと言うか,うまくはないんだろうなぁ,という感じでしょうか。
キャラクターの描き方で言えば,金持ちの馬主の書き方なんかは妙に類型的で,
どうなんだろう?と思うところがあったり,
ストーリーで言えば,さえない騎手と女子アナの恋ってのもちょっと…みたいなw
しかしまぁ,そうした粗も「ジョッキー」では許容範囲内ではあったんです。ええ。


でも,「GO-ONE」は許容範囲を超えてますw
「プロローグ」でいきなり高飛車な女性ジョッキー(一之瀬早紀)に
ツンデレ妹(日下部一那)が登場…って,ま,松樹先生!?
そんなに苦労して小説書いている状態なんですか?w
また,登場するキャラクターも「ジョッキー」と似たようなところがあって,
金持ち馬主一家の描写もやっぱり類型的だし,
主人公には過去に離別した兄貴分がいるという設定もまったく同じ…。
もうなんと言うか,話の前半はどうなるものかとハラハラしながら読んでいましたよ。


しかし,ここが自分の弱さと言うか甘さというか,
レースシーンが出てくると評価ががらっと変わってきてしまうんですよねぇ。
確かに,「ジョッキー」に比べてレースに駆け引き的な描写が弱くなっていて,
ちょっと残念な部分はあるんです。
(今回は主人公の日下部一輝の性格がとにかく「豪腕」で押しまくる騎手なんで,
駆け引きとか関係なくなっちゃっているんで…。)
でもやっぱり,レース描写は興奮するし,うまいんだよなぁ。
いきなり拍車使うわ,動物虐待のごとく追いまくるわなんだもんw
もう無茶苦茶なんですが,それが無茶苦茶だってわかって書いている人だからこそ,
許される描写なんですよねぇ。


第二章のレースシーンでレースシーンが出てきた辺りから,
前半部分を読んで抱いた不安なんてすっかり忘れて読んでしまいました。
いや実際,主要キャラの田京康友を「才能のない騎手」として書いた第三章は,
話としても面白かったと思ったんですがね。
…でも絶対,レースシーンのあとだったから
やけに評価が甘くなっていたんでしょうけどw


なんとも評価しにくい作品なんですが,
とりあえず「ジョッキー」を読んで面白いと思った方は,
読んでみてもいいかもしれません。
人によってはこの作品読んで,怒っちゃうかもしれませんがw
…ああでも,何だかんだで私は楽しく読んでしまいました,はい。