「IX(ノウェム)」

おのが観察する事象の成り立ちやその行方を、万象を司る五元素の運行になぞらえて見切る技、五行算法の使い手―趙五行。趙に率いられた達人たちに囲まれて育った燕児は、ある日、運命的な出会いを果たす。その相手とは、違い昔に滅びし神々―“震人”に関わる者だった!運命の少女と少年は出会い、そして歯車は動き始める…!“勁力”と呼ばれる超常の力、鍛えぬかれた身体、恐るべき武器の数々―全てが渾然一体となったとき、ひとつの世界が現出する…!!鬼才が描く超絶武術ファンタジー、登場。


北上次郎大森望との対談(読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド)で,「これは続かなきゃ困るよお」とおっしゃっていましたが,この小説を表現するにはそれだけでよいかとw この作品はあくまでプロローグのはずなのですが,出版されてからもう4年経っても続きが出ないことを考えると,続きはないんだろうなぁ…。ということで,読んでいない方には,絶対に読まないことをお薦めしますw


もちろん,続きが気になると言うことはそれなりに面白かったということ。ジャンルとしては「武侠小説」というものらしくて,昔の中国っぽいところを舞台にして,超人達がチャンチャンバラバラと戦いあうというお話です。私はこの手のバトルものがどうにも苦手で,「マルドゥック・スクランブル」でのバロットとボイルドの戦いや,「猫の地球儀」での「スパイラルダイブ」も情景を思い浮かべられなかったのですが,なぜかこの作品はすんなりと読めてしまいました。技の説明とかを,きちんとしてくれるからわかりやすかったのかも。このあたり,「冬の巨人」でも感じましたが,読者に対してとても親切に書かれているという印象です。


また,親切なのはバトルシーンだけではなく,「武侠小説」というジャンルにまったく縁のない私でも,すらすらと読み進めていけました。例えば,中国的なお話だとどうしても「人の名前が覚えにくい!」という部分がありますが,この作品では登場人物を戦い方にちなんだ「通り名」で書いているためすぐに覚えられました。「どこの誰を切れ」と言われれば,一言「諾(はい)」と答えてしとめてしまうという「劉一諾(りゅういちだく)」,絶対に引かずに戦い続けると言う「陸不退(りくふたい)」,腕が八本あるかのようなスピードで剣を使う「崔八手(さいはっしゅ)」など,いちいちわかりやすかったです。また,悪役たる「罪炎(ざいえん)」は剣から炎がほとばしる,というキャラなので,そのまんまですねw 。物語の流れを止めることなく,こうした配慮をきっちりできるというのは,一つの才能だろうと思います。


ストーリー的にはそれほどひねってはなく,王道っぽい話になるんだろうなぁ,というイメージでした。いえ,あくまでプロローグだけだからなんともいえないんですけれどw 山に住んでいるため武道の心得はないけれど,六本の指を持つ不思議な右腕からすさまじい怪力を発揮する九郎(くろう),実は…である燕児(えんじ),だらしないけれど無茶苦茶強い趙五行(ちょうごぎょう)など,キャラクターもまあ既視感ありますわな。でも,色々と謎を残しているのと,すいすいと楽しく読めてしまうのとで,どうしても続きが気になってしまう!こうした世界観の小説をあまり読まないところもあって,ぜひ最後まで読みたいなぁと思わせる作品でした。あぁ,読まなきゃよかったw