「銀河英雄伝説」(1〜3巻)

銀河系を舞台に、銀河帝国自由惑星同盟、およびフェザーン自治領(正確には、フェザーン銀河帝国の一部)の攻防と権謀術数を、ふたりの主人公ラインハルト・フォン・ローエングラムヤン・ウェンリーを軸に描くスペースオペラ。道具立てはSF的だが「後世の歴史家による記述」という体裁を取っており、文体はむしろ歴史小説に近い。


wikipediaより


私の読書の師とも言える友人から無理やり貸し付けられ…もとい,お貸しいただいたこの作品。1巻が出版されたのが20年以上前(私が生まれる1年前…)という古さ,どうにもとっつきにくいイメージのスペースオペラというジャンル,という二つの要素から,それほど期待しないで読み始めたというのが正直なところでした。しかし,読み始めるとこれが面白い!創元SF文庫で出版されている3巻まで,一気に読み勧めてしまいました。やっぱり名作と言われる作品ってのはすごいですわ。
おそらく,古い作品,しかもジャンルがスペースオペラということで,私と同じくとっつきにくさを感じている方も多いかと思いますが,その心配は無用です。


「古い作品である」という点について,実際に読んでみてほとんど古さを感じることがありませんでした。理由の一つは遠未来が舞台になっているため,それほど時代を感じる必要がないということでしょう。また,文体に回りくどさ(とにかく皮肉の応酬なんですわw)はありますが,今読んでも読みにくい文体ではありません。同じく皮肉だらけ(笑)で書かれているの「チーム・バチスタ」シリーズよりも,文章としては読みやすいかなぁと思いました。


また,この作品はスペースオペラではありますが,このジャンルの本をはじめて読む私でもすんなりと読み進められました。というのも,いろんな方々が言われているのように,この作品はスペースオペラではありますが歴史小説っぽいところがあるからだろうと思います。「銀河英雄伝説」といういかにもなタイトルであることもあり,戦って善が悪を蹴散らす,みたいなイメージを抱くかもしれませんが,実際には結構複雑な話です。銀河帝国自由惑星同盟フェザーン自治領という三つ巴での戦争で,いずれの国も「正義」や「悪」という簡単な区分けができませんし,戦闘シーンだけでなく政治的な駆け引きも大きな見せ場になっています。さらに,架空の歴史を語る形式ではありますが,絶対君主制銀河帝国と民主主義の自由惑星同盟,という対比などは実際の歴史を大いに参考にしていることがわかります(ちなみに,絶対君主制はカリスマが存在する間は効率的に機能する一方,カリスマを失ったあとの継続が難しく,民主主義は手続きの煩雑さから劇的な政策を実施しづらい半面,カリスマ無しでも継続的に機能しうる,ということを田中氏はほのめかしており,その認識は私とかなり近いんですよね)。
そして戦闘シーンも,宇宙での艦隊戦を描いてはいますが,艦隊と接近戦用の小型飛行機だけで戦うというシンプルな設定で,それぞれの勢力の技術的な差異は皆無なため,重要になるのは戦略と戦術になります。そのため,宇宙船同士のやりあいながら,三国志などの戦闘シーンをイメージすれば理解できてしまいます。この点もスペースオペラながらも歴史小説っぽいところで,スペオペ初心者でも違和感なく読める所以だろうと思います。


とまぁ,この作品のとっつきやすさについて書いてみました。で,次に作品の魅力についてですが,一つには上述したように,著者の歴史観に基づいた国家のやりとりの面白さがあるでしょう。主要人物たち以外の貴族や政治家があまりに無能なのはちょっと気にはなりますが,それでも歴史の一ページを眺める感覚を十分に楽しめます。
そしてもう一つ,忘れてはならないのがキャラクター達の魅力です。銀河帝国の面々は男前の凄腕軍人で,女性の方などにはたまらないのではないでしょうかw(おそらく,「ラインハルト×キルヒアイス」などという需要もあるのでしょう…w) しかし私が強調しておきたいのは,一方の主役であるヤン・ウェンリーが,思いっきり私好みの萌えキャラであるということw やりたくないのに軍人をやっており,どこかとぼけたところのあるヤンは,戦場では素晴らしい手腕で艦隊を指揮して勝利に導きます。このとぼけた感じがおかしくて,普段の生活では保護者であるユリアン少年などにだらしなさを正されたり,友人達には皮肉合戦でやりこめられたりと,そのあたりの描写がとても魅力的なんですよね。こういう部分をしっかり描いているあたり,古いながらもキャラクター性を十分に意識しているんでしょうねぇ。お酒を飲もうとしては毎回ユリアン少年に怒られるシーンなんかは,私は好きなんだなぁw


というわけで,今でも全然問題なく楽しめるこの作品。現在,創元SF文庫版が3巻まで発売されていて,徳間デュアル文庫版では全巻揃っている状態と言うことです。創元SFで全巻出るのを待つか,デュアル文庫に手を出すか…それが問題だ。。。