「風の海 迷宮の岸」

天啓にしたがい王を選び仕える神獣・麒麟。蓬莱国で人間として育った幼い麒麟・泰麒には王を選ぶ自信も本性を顕わす転変の術もなく、葛藤の日々を過ごしていた。やがて十二国の中央、蓬山をのぼる人々の中から戴国の王を選ばなくてはならない日が近づいてきたが―。壮大なる構想で描くファンタジー巨編。


●構成
十二国記異世界を舞台とした物語でが、物語の主役は「月の影 影の海」の陽子ではなく、蓬莱(日本)で生まれた麒麟、泰麒です。自身に能力がないことを悩みながらも、同じ麒麟の景麒や、王の候補の一人である驍宗などとの出会いから、麒麟であることを自覚していく泰麒の成長が描かれます。
私はすっかり、陽子の話が続いていくものだと勘違いしていました…。同じ舞台で別の話が展開されるというのはちょっと面白そうですね。


●文体
世界観はファンタジーですが、文体は一般向けの小説と全然変わらないです。ラノベのイメージとはまったく異なりますね。また、舞台が中華風の異世界であるため、出てくる固有名詞には全然なじみがないうえに、やたらと漢字が難しいw この感想を書いているときにも、漢字変換が面倒で困りました。私は固有名詞をなかなか覚えない人なんで、その点については読むのがちょっと大変でした。まぁ、シリーズを読み進めていけば、慣れていくのかもしれないですけれど。


●キャラクター
この話の主役である泰麒は、気弱でちょっと甘えん坊なところがありながらも、心優しく、芯には強さがあります。…ええ、ショタキャラですわw これは女性向けのレーベルで出版されているということも影響しているんでしょうか。ただ、この性格がストーリーの中でも生きているようにも見えますし、男の私が読んでもそれほど違和感はありませんでした。
また、「月の影 影の海」のキャラクターたちも要所で登場します。その中でも、泰麒と同じ麒麟である景麒の存在は結構大きいかも。…考えてみれば、この景麒もツンデレだなw 比較的硬質な文体ってこともあってあまり意識していませんでしたが、やはり萌え要素はしっかり抑えているわけですねw


●全体の感想
「月の影 影の海」に比べると、それほど大きな事件があるわけではありません。しかし、周囲に期待されながらも麒麟らしいことがなにもできないことに対する泰麒の想いは十分に伝わってきました。私も劣等感が強い人間なもので、泰麒に共感する面もあったと思いますね。それだけに、徐々に麒麟らしくなっていく泰麒を見ていて、やはりうれしくなりました。
あと、読んでいて一番ドキドキしたのは、後半の「―泰麒の罪は確定した」ってところです。「月の影…」に比べればヌルいものではありますが、やっぱり登場人物をシメるんですね、小野先生はw
個人的には「月の影…」よりも楽しめました。まだまだ継続して読んでいく予定です。