「モダンタイムス」

モダンタイムス (Morning NOVELS)

検索から、監視が始まる。
漫画週刊誌「モーニング」で連載された伊坂作品 最長1200枚

岡本猛はいきなり現われ脅す。「勇気はあるか?」
五反田正臣は警告する。「見て見ぬふりも勇気だ」
渡辺拓海は言う。「勇気は実家に忘れてきました」
大石倉之助は訝る。「ちょっと異常な気がします」
井坂好太郎は嘯く。「人生は要約できねえんだよ」
渡辺佳代子は怒る。「善悪なんて、見る角度次第」
永嶋丈は語る。「本当の英雄になってみたかった」


この作品に対して賛否両論はあるようですが、私の場合は、あまりにも伊坂らしい「ゴールデンスランバー」よりもこの作品をとりますね。伊坂氏らしからぬ荒々しさ、漫画らしさにハマりました。以下、作品の核心について触れている部分もありますので、未読の方はご注意を…。「■書き方について」までなら問題ないと思いますけどね。


■書き方について

この作品は、漫画雑誌「モーニング」で連載されていたものです。そのため、あとがきで著者は「いつもとは違う書き方」になった旨を説明しています。曰く、大きな筋書きや展開は決めておき、細かいアイデアや内容については毎週担当編集と相談して書き進めるという書き方だったそうです。おそらくいつもは結論から逆算しながら伏線を張り巡らせているだろうと思います。しかし、今回は上記の書き方であるために、伏線を丁寧に回収するといういつもの作風とは少し異なっていて、作品全体として少し粗い印象があります。話の展開にしても少し強引なところがありますしね。


しかし一方で、プラスの部分も大きかった。展開に少し粗さはありますが、場面場面の面白さ(笑えるという意味も含め)はいつも以上ですし、話の引っ張り方を意識しているためか、次の場面で話がどのように展開していくのかが楽しみで仕方がないのです。また、この作品ではいつも以上に伊坂氏の「熱」が感じらた点もよかった。例えば、主人公である渡辺がキレるシーンがあるのですが、伊坂ワールドの登場人物がキレているところってあまりないと思うんですよね。いつもだったら怒りなんかもスマートに表現するところなのでしょうが、漫画連載という性質上、一つの場面を盛り上げることを強く意識していて、かなりストレートな表現にしたんだろうと思います。こういうストレートで熱い部分の書き方もなかなかよくて、いい意味で伊坂氏の「スマート」なイメージを覆してくれました。


余談ですが、大きな筋書きや展開は決めておき、細かい部分は書きながら考えていくという今回の書き方、私の中では秋山瑞人が代表的だと思っています。彼の作品は、展開が多少強引で、伏線の回収の仕方にしても、素晴らしく回収する部分とちょっとクエスチョンマークがつくところがあります。しかし、そうしたところを犠牲にしてでも、一つの「場面」をドラマチックに書き上げることを(たぶん)優先しているため、一つの作品に数々の名シーンをぶちこんでいくんですよね。ほんと、ふとしたシーンでいきなり泣かされたりしますし…。で、「モダンタイムス」にしても、細部よりも「場面」が優先されている書き方になっていて、やはり書き方によって一長一短ありますし、作風にも大きく影響するんだろうなと思いました。


■内容について

「魔王」に対する回答が「砂漠」であるという点については、この日記で何度も触れているとおり、こちらのレビューで説明されています。で、今回は、「砂漠」でやったことを「魔王」の続編としてやったと言えるでしょう。そして、それをエンターテイメントの中でしっかり表現できているところから、狙いは見事に成功していると思いました。


ただし、「『魔王』読了後に読んだ方がいいって、絶対」とは思いました。「魔王」という作品では超能力の存在は前提になっており、それを非現実的でリアリティがないというのは間違っていると思うのですが、この作品では話の中盤になって、唐突に登場する印象があります。私の場合、「魔王」の続編であることを前提で読んでいたため問題なく読み進められましたが、「魔王」を読んでいない方がこの作品を読んだとき、「超能力」の登場で作品からリアリティが感じられなくなる可能性はあると思います。もちろん、「魔王」を読まないでも話がわかるように工夫はされているんですけどもね。




…そんなわけで、この作品は新しい伊坂の魅力が見られた、いい作品だと思いました。もちろん、基本路線は「緻密」で「クール」な作風であることは変わらないと思いますが、こういう書き方がを経験したことにより、作品の幅がより広がるのではないかと思います。


蛇足1
結局感想は書かなかったのですが、「モダンタイムス」とは逆に、「ゴールデンスランバー」については何も新しさを感じさせない作品だと思ったんですよね。そのあたりについて、気が向いたらいつか書いてみるかもしれません。


蛇足2
読了後、もちろん「安藤商会」「播磨崎中学校」「個別カウンセリング」で検索したよなw 結果は1件ではありませんでしたが、しっかりと出会い系サイト(っぽいもの)にヒットして笑いましたw 講談社、グッジョブ!