2012年の読書の振り返り。

久しぶりの更新です。最近は、下記のブクログにて地味に読書感想を書き続けております。
http://booklog.jp/users/degarashi


その中で、2012年に☆5つをつけた作品は3つでした。


高野和明「ジェノサイド」
小川一水「天冥の標? part2」
渡航「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている 6」


「ジェノサイド」は昨年のこのミス大賞1位作品ですが、実際に読んでみると設定は完全にSF。人類よりも上位の存在を仮定することで人類の欠点を示すという、山本弘「アイの物語」と同じテーマを持つ作品でした。二人の日本人作家が、人類に対して共通の危惧を持ち、それを作品にしたという事実に心動かされるものが。
もちろん見せ方は異なっていて、ジェノサイドは国家的な陰謀、傭兵たちの泥沼の戦争等々、男の子的に楽しめる要素が多いですね。特に傭兵たちを描いたパートの緊張感はたまらなかった!テーマ性、エンタメ性、どちらをとってもすばらしい作品でした。


「天冥の標? part2」は、全十巻が予定されているシリーズの、6巻のpart2。しかも次巻は6巻のpart3ということで、ここで話は閉じていませんw にもかかわらず、今年読んだ小説の中で一番面白かったと断言できる、最高の作品でした。2〜5巻で登場した太陽系の様々な勢力が、この6巻で様々に絡み合って歴史が大きく動いていく。そしてその背景に、非展開体であるノルルスカインとオムニフロラによる全宇宙規模での覇権争い(5巻)まで絡んでおり、全く先が読めない面白さ。小川一水は、いったいどんな世界を創造しようとしているのだろうか・・・。
また、6巻のキーフレーズ「おめでとう。もう、やめていいのです。」が登場するシーンの演出が、とにかく痺れましたねぇ・・・。SF小説としての世界観、エンターテイメントとしてのワクワク感、そして演出の素晴らしさと、どこをとっても素晴らしく、文句なく今年一番興奮した作品でした。


「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」は、タイトルからわかるとおりライトノベルで、著者も20代中盤と若い方。多くの才能あるライトノベル作家が一般文芸に移り、全体の層が薄くなった印象を持っていた私にとって、渡航という新世代のラノベ作家の衝撃は大きかったです。ライトノベルならではの軽妙な語り口ながら、高校という組織で発生する人間関係の描写が巧み。乙一と同様、いわゆるスクールカーストの底辺にいる主人公をおもしろおかしく描きながらも、彼らとクラス内で「イケている」側の人々を(半ば無理矢理)交流させることで、お互いが少しずつ理解しあい、でも仲良くなるわけでもない・・・という前向きすぎない絶妙な成長が描かれます。
今年発売されたのは4〜6巻で、6巻でシリーズを通しての大きなテーマが一つ解決されました。6巻は文化祭の話ながら、主人公の八幡は表舞台に出てくることなく、実行委員会で延々と事務仕事をこなすという地味っぷり。にもかかわらず、著者お得意の「社畜」ネタを連発して笑いを誘い、地味な仕事を楽しく読ませます。また中盤以降、八幡が周囲の白い目を無視してダークヒーローとして振る舞う姿は、痛々しくもあり、またどこか爽快感もありで、見事にエンターテイメントしていました。八幡の活躍を知りながら、何も言えずに見守る人々の辛さもひしひしと感じられた6巻。今後、八幡がどのように生き、成長していくのかに期待です。
・・・ちなみに、個人的には夏休みのモラトリアム感が満載だった5巻もよかったです。シリーズもののライトノベルだからこそできる、弛緩した、でも青春なエピソードたちでした。


その他、☆4つで印象に残った作品についてざっくりと。


秋山瑞人「DORAGONBUSTER 2」は、まさか2巻がでるとは思っていなかった作品w 寡作な作家の久しぶりの新作は、印象深いシーンとバリバリに格好いいアクションシーンが満載で、楽しませていただきました。作品のクオリティを見るにつけ、秋山さんの筆力にまったく衰えは感じられないのですが、なぜこんなに書くペースが遅くなってしまったのだろうか・・・。3巻が読めるのはきっと2015年くらいかな?w が、続きが楽しみな作品です。


チャイナ・ミエヴェル「都市と都市」は、一つの土地に二つの都市が存在するという、奇想譚的な設定。そして面白いことに、その奇想的な設定を背景にしながら、話の筋はまっとうな刑事もののミステリになっています。事件の真相もこの設定ならでは。また、ディテールがしっかりしているため、このむちゃくちゃな世界観に全然嘘くささがないのがいいですね。序盤は話を飲み込むまでに時間が掛かりましたが、それ以降は一気に楽しめてしまう作品でした。


安田浩一「ネットと愛国」はノンフィクション作品。私はインターネットによるコミュニケーションをきっかけにして、同じ趣味を持つ多くの人々と出会うことができました。その経験から、インターネットコミュニケーションのプラス面を大いに評価してきたわけですが、そのプラスの側面とまさに同じ構造で、在特会という集団が出来上がっていたことが興味深かったです。SNSがきっかけになった「アラブの春」も大きな岐路にたっている現在、インターネットコミュニケーションをどのように生かし、またどう抑制していくかということが、今後の大きな課題になりそうです。


冲方丁「光圀伝」は、水戸光圀というひとりの一生を描いた作品。冲方さんの歴史小説は「天地明察」ではなく「光圀伝」だ!と、声を大にして言いたい。歴史小説ながら、冲方さんらしい激しさを持った作品です。光圀の持つ強烈な個性が、いい意味で冲方さんの書きっぷりを過剰にしたんじゃないかなぁ。また、江戸の大火で多くの人や物を失うシーンは、著者自身が福島で被災している経験があるからこそ書けたシーンだと思います。このシーンは胸に迫るものがありました。


・・・と、2012年に読んだ作品をざっくりと振り返ってみました。2012年はあまり冊数が読めなかったのですが、それでもよい作品にたくさん出会うことができました。今年はもうちょい読む量を増やしたいですね。また、年末にkindleを購入したので、今年は個人的な電子書籍元年になりそう。まだまだ売っている本の数が少ないのですが、買えるものはkindleで買っていくようにしたいですね。