ALL YOU NEED IS KILL」を読んでみました。
桜坂洋の作品は「スラムオンライン」に続いて2冊目になります。
以下,あらすじを引用しますと…

「出撃なんて、実力試験みたいなもんじゃない?」敵弾が体を貫いた瞬間、キリヤ・ケイジは出撃前日に戻っていた。
トーキョーのはるか南方、コトイウシと呼ばれる島の激戦区。
寄せ集め部隊は敗北必至の激戦を繰り返す。出撃。戦死。出撃。戦死―死すら日常になる毎日。
ループが百五十八回を数えたとき、煙たなびく戦場でケイジはひとりの女性と再会する…。
期待の新鋭が放つ、切なく不思議なSFアクション。
はたして、絶望的な戦況を覆し、まだ見ぬ明日へ脱出することはできるのか。


さすがに評判の良い作品だけあって,十分に楽しめました。
戦場の兵士を描いていますが,感覚的にはシューティングゲームをプレイしているような印象です。
逆に言えば,シューティングゲームをやったことのない人だと,この作品の雰囲気が伝わらないかも。


ゲームはリセットができるから子供に悪影響を…などと言われることがありますが,
この作品ではそうしたゲームの世界の設定を逆手に取ったイメージです。
いいとか悪いとかではなく,リセットができてしまうゲームの世界が現実にあるとこんな感じ,
みたいなところを表現しています。
戦場での敵を,人間ではなく「ギタイ」と呼ばれるマシン(のようなもの?)にしていたり,
主人公のケイジが用いている武器がバトルアックスだったりする点は,
話をゲームっぽくするためのギミックなのでしょう。


こうした設定はとても面白いのですが,背景の説明の仕方がうまくない気がします。
「ギタイ」が人間を襲うようになった理由や,ヒロインのリタの過去の話などは,
まさにとってつけたような説明がなされているだけです。
説明自体は理解できるのですが,いかにも「説明しました」というような
説明の仕方はあまり好きではありませんでした。
この点,秋山瑞人氏の作品では,作品の設定を風景描写から類推させたり,
キャラクターに会話の中で説明させたりと,うまくやっているんでけどね。
まあ,設定を説明するにはページ数が少なすぎる,ということもあったのでしょうが。


とはいえ,徐々に戦場に慣れてくる描写や,周りの兵士達と時間を共有できない孤独感などが,
妙に冷めた独特の文体で描かれていて,とても楽しく読めました。
ゲーム世代ならではの感覚が生んだ,新感覚の小説ですね。