「大学の一年間なんてあっという間だ」入学、一人暮らし、新しい友人、麻雀、合コン…。学生生活を楽しむ五人の大学生が、社会という“砂漠”に囲まれた“オアシス”で超能力に遭遇し、不穏な犯罪者に翻弄され、まばたきする間に過ぎゆく日々を送っていく。パワーみなぎる、誰も知らない青春小説。


伊坂氏の作品ではじめて読んだのが「陽気なギャングが地球を回す」だったこともあり,
私は,伊坂氏はキャラクター小説を書く人という認識を持っています。
(いやもちろん,ミステリの人というのが前提にはなっているんですが…)
そんな伊坂氏の作品の中でも「砂漠」はかなりキャラクターに力を入れて書いた作品だと思います。


グラスホッパー」を読んでいないのでなんともいえませんが,
アヒルと鴨のコインロッカー」まで,伊坂作品の登場人物は「陽気なギャングが…」が
テンプレになっていると思っています。ぱっと思いつくところで言うと…


響野…河崎(アヒル鴨),陣内(チルドレン)
成瀬…永瀬(チルドレン)
久遠…春(重力ピエロ)
雪子…麗子(アヒル鴨)


という感じでしょうか。もちろん,異論もあるとは思いますが…。
ただ,彼ら4人のキャラと似たところが,他の作品のキャラにも多々見られるとは思います。
もちろん,「陽気な…」の4人のキャラクターはとても魅力的で素晴らしいですし,
その他の作品に出てくるキャラクターも良いのですが,一方で,やはり飽きてくる面もありました。


で,本題の「砂漠」です。
この作品はなんと言っても西嶋のキャラクターが立っています。
響野キャラに近いのは確かですが,伊坂キャラには珍しいくらいにスマートさがないんです。
言うことは暑苦しく,やることも幼稚な部分があり,そして外見にもスマートさがないw
というか,伊坂作品の主要な登場人物で外見が良くないキャラって,西嶋くらいではないでしょうか?w
確かに,多弁で強引で独善的(言いすぎか?w)なところは響野さんっぽいのですが,
でもあの暑苦しさ,空気の読めなさ,かっこ悪さは,
今までにまったく見られなかったキャラ描写だと思います。


この作品は「春」「夏」「秋」「冬」「春」と話が分かれていますが,
どの章でも西嶋が暑苦しさ全開で,読んでいて楽しくなってしまいます。
また,青春小説として書かれているためかミステリ要素も他の作品より弱いため,
「西嶋の楽しさ=キャラクター」というくらいに,キャラの魅力に頼った小説になっている気がします。
でも,伊坂氏はキャラを動かすのが本当にうまいので,
たまにはこれくらい思い切ってキャラクター小説を書くのも,個人的にはありだと思います。


強烈な印象を与える作品ではないと思いますが,キャラクター小説として,
ライトノベルの感覚で楽しめる作品になっているのではないでしょうか。
仮にこれが電撃文庫で出ていても,それなりに支持されそう。


ちなみに,私が先日サンボマスターのライブに行って感化され,
CDもまとめて借りたことを差し引いても,西嶋のモデルはサンボの山口だろうと断定できます。
外見的な特徴も,「愛と平和!」的暑苦しさも,完璧に一致しますからね。
そういえば,桜庭一樹も「少女七竃と七人の可愛そうな大人」でサンボの歌詞を引用してました。
サンボマスターの影響力は強いんですねぇ。。。