最近,読み始めても最後まで読み進められない,という本ばかりに当たっていたので,
日記を更新する気も起こりませんでした…。
ここは,相性のよい書評家である大森望氏が薦めている本でも読んでみるか,
と思って読んだのが「アイの物語」。結論から言えば,大当たりでした!

『神は沈黙せず』の著者がつむぐ“機械とヒトの千夜一夜物語”。
数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。
機械を憎む青年にアンドロイドが囁く、「物語から、この美しい世界は生まれたのよ」と。
彼女が語り始めた、世界の本当の姿とは?


この小説は,アンドロイドの「アイビス」が,人間である「僕」(名前あったっけ?)に
物語を語るという形式で,7話の短編から構成されています。
正確に言えば,5話の短編と2話の中編といったところですが…。
読み始めて,最初は普通のジュブナイル小説だなぁ,と思ったくらいで,それほど面白いとは思いませんでした。
しかし,最後の2作にあたる中編の2話が,とにかくよくできています。


6話目の「詩音が来た日」は,介護用に作られたアンドロイドの話で,
7話目の「アイの物語」は,語り部であるアイビスの経験した真実の話。
どちらにも共通しているのは,人とアンドロイドについて書かれた話で,
そのアンドロイドの描写がとてもユニークです。
「心を持たないアンドロイド」や「人間の心を持ったアンドロイド」はよく出てきますが,
この作品は,そのような発想を見事に裏切ったアンドロイド観を示しています。
簡単に言ってしまえば,ここでのアンドロイドは,人間とは異なった心を持っている,という感じでしょうか。
そして,アンドロイドの論理的かつ倫理的な「心」をとおして人間の「心」をみると,
そこに存在する「バグ」がはっきりと見てきます。
つまり,人間に存在する「憎しみ」や「蔑み」といった感情が,いかに論理的でないかが示されています。
(このように書くと,妙に理想的な話に見えるかもしれませんが…)


そのほか,神を「無慈悲な大量虐殺者」と宣告する「フィーバス宣言」など,
読んでいてびっくりするような話がいくつも出てきます。
アンドロイドをとおして見た人間の心が,とても新鮮で面白い。お薦めの作品です。


…欲を言えば,最初のほうの短編がもう少し面白ければなぁ。。。
つまらないわけではないですが,ジュブナイル作品を読みなれていないとちょっとどうだろう。