マルドゥック・スクランブル―The Second Combustion 燃焼 (ハヤカワ文庫JA)
マルドゥック・スクランブル―The Third Exhaust 排気 (ハヤカワ文庫JA)

なぜ、私なの?―賭博師シェルの奸計により、少女娼婦バロットの叫びは爆炎のなかに消えた。
瀕死の彼女を救ったのは、委任事件担当官にしてネズミ型万能兵器のウフコックだった。
高度な電子干渉能力を得て蘇生したバロットはシェルの犯罪を追うが、その眼前に敵方の担当官ボイルドが立ち塞がる。
それは、かつてウフコックを濫用し、殺戮のかぎりを尽くした男だった…弾丸のごとき激情が炸裂するシリーズ全3巻発動。


北上次郎大森望の書評対談本「読むのが怖い!」で絶賛されていた
マルドゥック・スクランブル」をついに読みました。
全3巻,合計1000ページほどにもなるお話ですが,すんなりと読めてしまいました。
いやぁ,面白かったです。


基本的に,物語が盛り上がってくるのは対決の場面ですが,
その中でも,いろんな方がおっしゃっているように,
ブラックジャックのシーンが無茶苦茶かっこいい!
ちなみにこの本,ブラックジャックだけで200ページも使ってるんですよねw


アシュレイとバロットとのブラックジャックでの対戦は,
とてつもない緊張感,緊迫感があり,静かな闘いではあるのですが,とにかく燃えます。
闘いが続く中で,アシュレイとバロットが交わす会話,
ドクターやベル・ウィングがバロットにかける言葉も,なんかいいです。
たぶん,延々ブラックジャックの勝負ばかりだと飽きてくるのでしょうが,
この,途中で会話が良いリズムを作っているんでしょうねぇ。
正直,抽象的でわけがわからなくなることも(よく)あるのですが,
文章の勢いに押されて,ぐいぐいと引き込まれていってしまうのです。
…絶対,ブラックジャックってこんなゲームじゃないよなぁ,とか思いつつもw


一応,この物語のラスボスはボイルドという「事件屋」で,
バロットとの銃撃戦も何度かあるのですが,
どうもカジノシーンの印象が強すぎて,アシュレイがラスボスという感じがしてしまいます。
ちょっとボイルドがかわいそうw


しかし,明らかに著者がかっこよくしようとしているキャラクターが,
そのとおりにかっこいいのはちょっとすごい。
アシュレイは当然ですが,バロットの相棒であるウフコックもかっこいいですし。
見事に著者の術中にはまっている気がしますが,面白いのでそれでよし,ということで…。


全体をとおして見ても,思いっきりSFなんですが,読みにくいと言うことはありません。
おそらく,未来都市の描写よりもバロットの心情に重きを置いた書き方なので,
SFにそれほど慣れていなくても,すんなりと読めてしまうのでしょう。
ただ,2巻で出てくる「楽園」での話はちょっとSFっぽい雰囲気が強いかも。
というか,むしろファンタジーっぽいか。
私はちょっと「楽園」での話はあまりなじめなくて,
その辺りで中だるみしてしまったかな,という印象でした。


抽象的でわけのわからない部分があり,読者を置き去りにしていくけれども,
とてつもなく熱くて面白い,というのは,ちょっと古川日出男に通ずるものがあるように思いました。
まあ,古川氏よりは読者のことを考えて書いている気はするんでけどw
でも,古川氏が面白いと思う方は,このマルドゥック・スクランブルも楽しめるのではないかと思います。
とにかく,カジノです!


ちなみに,ブラックジャックのルールを知らない方は,
読む前に基本的なルールくらいは覚えておいたほうがいいです。
一応簡単な説明はあるんですが,この本の説明だけだとちょっとわかりにくいかも。
http://hp.bird.to/cgi-bin/blackjack.cgi?howto
このあたりのページを参考にするといいかもしれません。