「赤朽葉家の伝説」 桜庭一樹

“辺境の人”に置き忘れられた幼子。
この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、
赤朽葉家の“千里眼奥様”と呼ばれることになる。
これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。―千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。
高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たち、
そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の姿を、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。


年明け前には読み終わっていたのですが,どうにも感想がかけなかった作品。
色々な書評を見ても結構評判が良くて,2月号の「本の雑誌」では
大森望も結構誉めていました。
何となく大森ウォッチャーとなっている私としては,
「大森の好きそうな内容だよなぁ」とか思いつつ…。


で,私の感想ですが,面白いんです。絶対に。
桜庭作品の中でどれを人に勧めるかと言われれば,「赤朽葉家の伝説」だろうとも思います。
でも,私はやっぱり「少女七竈と七人の可愛そうな大人」のほうが好きなんです。
その感覚をどう表現すればよいのかなぁ,と思っていたら,
棒日記Ⅲ Deeds are better than words」さんのレビューで以下の記述を読んで
妙に納得してしまいました。

前作『少女七竈と七人の可愛そうな大人』でも美しく特徴的な文章で語られていたが、
自分にはやや詩的過ぎるように感じられる瞬間もあった。
だから伝聞に従って年代記のように語られる本書の文章の、
やや物事から距離を取る語りはちょうど良かった。


そう,私の場合は,桜庭は過度に「詩的」であったほうがいいんだと思います。
「ブルースカイ」で中世ドイツの雰囲気を見事に描いたあの筆致,
あれが私のもっとも好きな桜庭一樹なんですよね。
美しく,でも妙に不安定で「気持ちの悪い」世界観。
この感覚が今回は「すこぅし」足りないかな,と思いました。


とはいえ,桜庭一樹らしくないかと言われれば,そんなことはありません。
叙情的というよりは叙事的な内容にもかかわらず,
やはり不思議な「気持ち悪さ」は出ていますし,
いつもどおり登場人物の名前はおかしいw
シリアスな内容をどこかマヌケなエピソードで語っているところもいつもどおりで,
飽きることなく300ページ(2段組)を一気に読めてしまいます。
そして何より,桜庭に二人組みの少女を書かせると,本当に生き生きとしてきます。
今回は「万葉とデメキン」,「毛鞠とチョーコ」という組み合わせが登場しますが,
やはりこの2人に関するエピソードが印象に残りました。
第三部に登場する「瞳子とユタカ」では,やっぱり物足りないんですよねw


と,個人的にはとても感想を書きにくかった作品である上,酔った勢いで書いていることもあり,
どうにも具体的な感想にはなっていませんね。でも,面白いことだけは確かです。
この作品と,2月に単行本化されるらしい名作「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」で,
桜庭一樹も結構有名になるんじゃないかなぁと思うのですが,どうだろう。