魚住昭氏の2作を紹介

野中広務 差別と権力 (講談社文庫)渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)


書く書く,と宣言しつつ全然書いていなかった
「ニュージャーナリズム」についての紹介。
どうしても昔読んだ本のことなんで,
自信を持って書けないところが…。
と,とりあえず曖昧な記憶と
抽象的な評価ばかりになっちゃいますが,
ライターさんの紹介と言う形で書かせてもらいます…。
今回は「渡辺恒雄 メディアと権力」や
野中広務 差別と権力」を書いた魚住昭氏。


以前に紹介したデイヴィット・ハルバースタム
「リベラルな思想を基に徹底的な取材で大作を書き上げ,
保守層をも黙らせるノンフィクションライター」だとすれば,
魚住氏は「リベラルな思想を持ちつつも,ジャーナリストとして
できるだけ中立を保とうとしているライター」さんだと思います。
実際,斎藤貴男なんていう猛電波ライターとつるんで本出しているくらいですから,
思想的にはかなりリベラルなんだとは思います。。。
(ちなみに,斎藤大先生の評価についてだけは何があっても譲りませんw)
しかし,魚住氏の作品にはあまりリベラル臭が感じられません。
自分自身の思想はともかく,ジャーナリストに徹して作品を作り上げている,
素晴らしいライターだと思います。
ジャーナリズムの世界では,「ジャーナリストが公正中立を保つことは不可能。
だから,公正中立なんてのは意味がない。」なんていう意見もありますが,
魚住氏の作品を読んでしまうと,この意見には賛成しかねます。
完全な公正中立を保つことは不可能ですが,やはり鉄則としてそれを守ろうと言う意識が,
素晴らしい記事や素晴らしいノンフィクションを生むのだと思います。


さて,作品としてはやはり「渡辺恒雄 メディアと権力」が面白い。
一時期ほどのインパクトはなくなりましたが,
それでも色々なところで「悪役」として世間を騒がせるナベツネ
その半生を追っているというだけでも興味深いものがあります。
そして,読売新聞の一記者が社長にまで上り詰め,
かつ国内政治にまで影響を与えるほどの「権力者」となっていく姿から,
まさにテレビを通して見るナベツネを彷彿とさせる力強さが見て取れます。
以前に紹介した「メディアの興亡」の中で,杉山隆男氏はナベツネ
「あの時期の読売新聞という会社が必要とした記者だった」と評していますが,
「メディアと権力」を読んでいると,その意味がよくわかります。
一記者ながら読売新聞が国有地を獲得できるように暗躍するナベツネは,
まさに政治記者ではなく政治家。
朝日新聞や(当時の)毎日新聞のような大新聞と比べてまだ読売が弱かった時代に,
ナベツネの政治力は本当に必要とされていたのでしょう。
彼が当時,朝日新聞にいたとすれば,あまりの活力と独善性から,
今のようには出世できてないだろうなぁ。。。
その他,ナベツネ共産主義にかぶれていた学生時代の描写は,
読んでいると「かなりの変わりの者だけど面白いやつ」という印象を受け,
実は結構好感を持ってしまいました。
まぁ,権力への妄執を感じるのは確かなんですが。
(ちなみに,私はプロ野球ファンですので,断固としてアンチナベツネです。念のためw)


あと,「野中広務 差別と権力」も良いのですが,小泉政権誕生以降,
野中氏は完全に過去の人になってしまったからなぁ。
この作品が小泉政権誕生以前に出版されていれば,
もっと興味深く読めたんでしょうが…。
麻生太郎氏が部落差別的な発言をしたことに対して,
部落出身者である野中氏は猛烈に怒っていたそうですが,
その麻生氏が現在外務大臣やっていることを考えると,
「影の総理」とも言われた野中氏は,
完全に小泉氏に殺されたんだなぁ,と思ってしまいました。
もちろん,政治的にねw


さて,魚住氏は最近,佐藤優氏なんかともつるんで本を出しているみたいで,
やはりただのリベラルではないところを見せ付けています。
(佐藤氏は最近本当に良く出るようになったなぁ。)
取材は徹底的にやる人なので,すぐに新作が出版されるとは思いませんが,
いまの「公正中立」を保った姿勢で,取材を続けていただきたいと思います。