「ミミズクと夜の王」

第13回電撃小説大賞の「大賞」を受賞した作品がどうにも話題になっていて,なんでも表紙は風景画,挿絵はなしという,ライトノベルにはあまりない形式で出版されているそうです。電撃文庫ラノベの最大手,一般向けにハードカバー版を出して「図書館戦争」で一発当てるなど,アグレッシブに新ジャンルに挑戦していっているイメージがあるのですが,今回もかなり挑戦的な作品に「大賞」を与えたのだろうと思い,好奇心に負けて読んでみました。


読んでみますと,この作品は正しい意味で完璧な「ジュブナイル小説」になっていました。基本的に「萌え要素」はほとんどなく,あるとすればヒロインの「ミミズク」ではなく,ツンデレキャラの「夜の王」に婦女子が萌えるかも?w 「夜の王」をツンデレと言うのもちょっとアレですがw それはともかく,子供の頃にこの本を読んだら小説が好きになりそうだなぁと思うような「いい話」で,良質な「ジュブナイル小説」だと思います。ちなみに私は小学生のときに太宰治の「人間失格」を読んでトラウマになり,それ以降大学卒業くらいまで小説は読まない人生を送ってきたので,あのときに太宰じゃなくてこの作品読んでいたらなぁ…,などと悲しい気分になりましたw


大まかなあらすじを説明すると,奴隷としてあまりにもひどい境遇に置かれ,幸せや痛みなどという感情をすり減らしてなくしてしまっていた少女「ミミズク」が,「夜の王」との対話やレッドアークに住む人々との交流を通じて,さまざまな感情や,幸福とはなにかを学んでいくという話です。話の舞台からしてそうですが,御伽噺が苦手な人には読みづらいと思います。私の場合は,最初から完全に現実と離れた設定であればリアリティがなくても大丈夫なので,この作品は楽しんで読めました。


この作品,大人が読むとどうしても「いい話」すぎて,ちょっと違和感を覚えるかもしれません。聖騎士のアン・デューク,その妻のオリエッタなど,登場人物がことごとく善人だからなぁ。それもこてこての善人。悪者のキャラクターとしては,「ミミズク」の過去の回想として出てくる奴隷時代の人たちくらいなものです。でもまぁ,有川浩氏が言うように,この作品の魅力が「奇をてらわないこのまっすぐさ」にあるのだと考えれば,これはこれで良いのでしょう。そういう意味でも,やはり「良質なジュブナイル小説」だと思います。実際,泣きはしませんでしたが,やはりラストシーンは良かったです。ええ。


個人的には「夜の王」のいる魔物の森あたりの雰囲気のほうが好きだったので,レッドアークでの話はもうちょっと短いほうが良かったかなと思っています。どうも私,「剣と魔法」が出てくるとだめな人なので…。ミミズクが「クロちゃん」を中心とした魔物たちとの交流の中から学ぶ,という展開でも良かったのではないかなと。まぁ,どうしても「人間との交流」を描く必要はあるとは思いますけどね。あと,キャラクターでは断然「クロちゃん」が好き。こういういい脇役がいると,読んでいて楽しいものです。