「鴨川ホルモー」

このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗な女(鼻)でした。このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祇園祭宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる、疾風怒涛の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。「鴨川ホルモー」ここにあり!!第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。


夜は短し歩けよ乙女」に続き,また京都を舞台にした京大生の小説,「鴨川ホルモー」を読みました。私は中学時代の修学旅行で行ったきりなので,あまり京都の町のイメージが沸いてこないのがちょっと残念ですが,「鴨川ホルモー」の万城目氏にしろ,「夜は短し…」の森見氏にしろ,京都の町を魑魅魍魎が跋扈する,不思議な町といったイメージで描いています。きっと,京都の町にはそういう奇妙な雰囲気があるのだろうなぁと思ってしまいます。


さて,この作品はなかなか評判がよいようで,処女作ながら本屋大賞にもノミネートされています。ただ,私の読んだ感じでは,なにか「凄さ」や「意外性」を期待する作品ではなく,サクッと読んで楽しむタイプの小説だろうと思います。「ホルモー」という突拍子もないキーワードは出てきますが,ストーリーもある程度予定調和的で,わかりやすい青春小説です。誰が読んでも楽しめるでしょうが,過度に期待するとちょっと期待はずれだったりするかもしれません。


作品の魅力は,やはり謎の「ホルモー」です。作品の前半では「ホルモー」が何であるかがぼかされていて,「一体ホルモーとはなんだろう?」と興味を持ちながら読み進められました。「先が気になってついついページをめくってしまう」という仕掛けがあると,その本はとても読みやすく,楽しみやすくなるという印象がありますね。
また,「ホルモー」という競技の正体が明かされてからも,架空の競技であるホルモーがきちんとイメージできる範囲で描写されていて,それなりに楽しめました。実際に存在する競技でさえ,読者がイメージできるように描写するのは難しいと思うのですが,架空の競技を読者がイメージできるように書くのはもっと大変だろうと思います。


ただ,少し不満なのは青春小説としての面です。この作品,「恋」,「友情」,そしてホルモーでの「戦い」がテーマになっているべたべたな青春小説ではありますが,「恋」や「友情」の書き方はちょっと物足りなかったように思いました。
まず「恋」についてですが,「なんで好きになったのか?」という描写がちょっと弱いため,説得力に欠けるところがあるかなぁと思います。何でヒロインが安部(主人公)を好きになったのか,そこに説得力がないだけに,どうしても盛り上がりに欠ける気がします。
また,「友情」についても同様で,「京大青流会ブルース」の面々が「友情」で結ばれる雰囲気はどうしても伝わってきません。安部の友人である高村についてはまぁ,全然問題ないと思うのですが,三好兄妹なんて影が薄すぎだしなぁ。。。彼らをもう少し魅力的に描かれていれば,「友情」が出てくる演出も納得できたのかもしれませんが,いかんせん物足りない。もう少しページ数があれば…というところかもしれませんね。


とはいえ,安部自身の内面についてはきっちりと描かれていて,その辺は青春小説としてうまくいっているのかもしれません。内気な人間にはついつい感情移入してしまうところがあるので,私が一人で楽しんでいるだけかもしれませんがw また,仲の悪い人とは下手に仲良くならない,みたいな書き方は,変に暑苦しくなくて良かったと思います。こういう書き方って結構珍しいかもしれません。私は「みんな仲良く」みたいなのはどうにも苦手なので,この点は読みやすかったかなぁと思います。どうしても,合わない人とは合わないですからねぇ。


とにかく,とても安定していて,誰が読んでもそれなりに楽しめる作品だと思います。なんというか,「ホルモー」のシーンさえ何とかできれば,すごい映画化しやすそうだなぁというイメージの作品でした。「ホルモーーッ!」と叫ぶシーンが宣伝で流れている,というのが何となく頭に浮かびますw


以降はネタバレ

早良良子ではなく「凡ちゃん」をヒロインにしたのは素晴らしいと思ったんですが,別に凡ちゃんが「実はけっこう美人」である必要はあるのかなぁ…。せっかく凡ちゃんヒロインにするんだったら,外見的にかわいらしいヒロインでなくてもいいんじゃないかなぁ,と思ったりして,ちょっと不満でした。やっぱりヒロインは,かわいらしくないとダメですかねぇ…。実にどーでもいい不満ではありますが…w