フィッシュストーリー

あの作品に登場した脇役達の日常は? 人気の高い「あの人」が、今度は主役に! デビュー第1短編から最新書き下ろし(150枚!)まで、小気味よい会話と伏線の妙が冴える伊坂ワールドの饗宴。


伊坂幸太郎の最新作。この作品読んで,読んでいないの伊坂作品は「グラスホッパー」だけになってしまいました。おお,気がついたらずいぶんと読んでいるんだなぁ。この作品は,雑誌で書いた短編を集めた感じですね。


とにかく「外れのない」作家さんというイメージの伊坂氏ですが,「動物のエンジン」と「サクリファイス」と読み進めて,これは外れかなぁと思いました。「動物のエンジン」は,正直に言ってどこで面白いと思えばいいのかわからなかったですし,「サクリファイス」も伊坂が書いたにしてはあまりにも「普通」な話。もっとも,「動物のエンジン」はデビューしたての頃の作品らしいので,私の好きな伊坂っぽさがないだけなのかもしれませんが。


また,「フィッシュストーリー」にしても,いつもの伊坂ならもうちょっと面白くしそうな感じも。いわゆる伊坂の「奇跡系」(私個人の勝手な分類w)の話なんですが,他の「奇跡系」作品(透明ポーラベアとか,チルドレンⅡとか…)と比べると,もう一押し足りない感じなんですよね。まあ,私が伊坂氏の作風に慣れてきてしまっているだけで,初めて伊坂作品を読む人にとっては十分に面白いのかもしれないんですけどね。ただ,私個人としては,伊坂はもっと面白い話を書く人だぁ,と思っているのです。


でも,最後に掲載されている「ポテチ」は結構好みかも。というか,このテーマでも長編にしてもらいたかったなぁ…。空き巣の今村がなんとも愛嬌のある抜けた感じの性格で,とても悩みを持っている人間には見えない。だけど,実はある悩みを抱えていて…。
プロ野球選手である尾崎に対する今村のわけのわからない執着,その原因は読みていけばわかるのですが,なんか今村がすごい「いい人」って感じがしました。自分と尾崎を比較して落ち込みはしますが,それでも(誰かのために?)尾崎を応援できてしまうのですから。私なんぞのような度量の狭い人間だと「なんだ,尾崎もたいしたことないじゃない。よかったぁ」とか,そんなことを考えてしまいそうな状況ですもんね。
惜しむらくは短編ゆえか,どうしても話が強引になってしまうところでしょうかね。尾崎をバッターボックスに立たせるまでの過程については,さすがに強引過ぎる気がします。これが長編作品だったら,もっと緻密に設定を練った上でやったんでしょうけれど。
とはいえ,この作品は十分に楽しめました。…ただ,私はどうも天然無邪気系キャラクターは大好きらしいので,今村のキャラクターで若干評価が甘くなっているのかもしれませけどw


…というわけで,全体的には「ポテチ」があったのでとりあえずはOKかなぁ,と言うくらいでした。そういえば,友人がこの作品を「ファンブックみたいなもの」と言っていましたが,なんとなく納得。でも私,この作品に何度も登場するあのキャラクターがそんなに好きなわけではないので,それで楽しめない部分もあったのかも。


完全な蛇足ですが,なんとなく「勧善懲悪」的なイメージのある伊坂作品の中で,浮気がちな女性になんの罰がくだらなかったのがちょっと以外だったかもw あと,伊坂の「美人」好きは今までの作品から明らかでしたが,今回はついに「幼顔」をヒールにしていて,ちょっと笑ってしまいましたw