「未完成」

世界の常識がひっくりかえっても美沙汰にすることができない大事件―二重三重に閉ざされた孤島の射撃場で、何人もの隊員が見守るなか、小銃が消え失せた!事態を完璧な秘密状態のまま解決するという難題に挑むのは防衛庁調査班の朝香二尉と相棒の野上三曹。謎解きと小説の面白さが奇跡のように調和した傑作。

「アンノウン」に続く朝香二尉,野上三曹コンビの自衛隊ミステリ作品。ですが,私が「アンノウン」を読んでいて面白いと思った部分が見事になくなってしまった感じで,残念でした。朝香,野上コンビのお話ももう書きそうにもないし,著者は「アンノウン」の路線ではあまり書きたくないんでしょうね,きっと。


まずはキャラクターについてですが,「アンノウン」では面白く描かれていた朝香二尉のキャラクターが全然生きていない気がします。どこかとぼけていて愛嬌があるけれども,切れ者といういいキャラクターだったのですが,本作ではとぼけた感じがあまりないんですよねぇ。。。相変わらずコーヒーは良く飲むし,粘土遊びもするのですが,いかんせん面白みに欠ける…。野上三曹との掛け合いにしても,事件の調査としての会話ばかりで,どうにもキャラが生きてない感じが。別にこの二人のコンビではなくても良いのでは?,などと思ってしまうくらい,キャラクター性には乏しかったと思います。


また,キャラクター性がでていないこともあってか,ミステリの「事件発生→調査→謎解き」の展開における「調査」部分が退屈になってしまっている感じもします。「アンノウン」と比べてページ数が多いためか,「調査」部分での情報量も多くなっていることもあり,どうにも読むのが面倒くさくなってしまいました。まぁ,これはミステリファンにとっては全然気にならない点かもしれません。ただ,あまり犯人を推理しながら読まない私のような人間には,退屈する部分が多いのではないかと思います。あと,種明かしのときに「びっくりした」度合いで言っても,素人の立場から言えば「アンノウン」のほうが上でした。


そして何より,動機の部分が面白みにかけるかなぁ,と。なんか,「アンノウン」で描いた一般人としての自衛隊という視点があまり感じられず,紋切り型の自衛隊同情論に見えてしまうんですよねぇ。この動機なら,古処氏でなくても書けちゃう感じがします。「アンノウン」では,自衛隊出身という古処氏だからこその動機だったと思ったのですがねぇ。


と,「アンノウン」と比べていまいち乗り切れない感じでした。たぶん,著者は「アンノウン」よりも真面目な感じの小説が書きたいんでしょうねぇ。私の読み方は「小説=エンターテイメント」なので,古処氏は私の守備範囲からは外れていきそうです。というか,最近の古処氏の作品は,たぶん私には無理でしょう…。