2007年度も早くも折り返し地点,ということで,2007年度上半期に読んだ作品の中で特に面白かったベスト5を挙げたいと思います。


5位 アンノウン 古処誠二アンノウン (文春文庫)

古処氏のデビュー作にとなる自衛隊ミステリ小説。良くまとまっている中編小説は好きなもんで,この作品はとても楽しむことができました。ミステリとしての仕掛けも個人的にはそれなりに楽しめましたし,キャラクター小説としても朝香二尉のキャラがしっかりと立っています。しかし何よりも秀逸なのは犯行の動機。なぜ犯人は,隊長室の電話に盗聴器を仕掛けたのかを知ったとき,なんともいえないやりきれなさが…。小説の設定(ミステリ)とテーマ(自衛隊とは…)が見事にかみ合った作品だと思います。
…だのに,シリーズ続編である「未完成」ではテーマばかりが先走ってしまったのは,どうにも残念でなりません…。
ちなみに,朝香二尉をリスペクトで,この作品はブラックコーヒーを飲みながら読んでしていましたw 普段全然コーヒー飲まなかったのですが,これがきっかけになって最近はちょっとコーヒー飲むようになってしまった…。


4位 魔王 伊坂幸太郎魔王

またベスト5に伊坂作品を入れてしまった…。どうも伊坂作品は,「どうせ面白いんだろうなぁ…」と思いながら読んで,読後に「くそ,やっぱり面白いなぁ…」という,わけのわからない敗北感に駆られるんですよね。きっと,文体にそこはかとなく漂うお洒落な雰囲気に対する反発なのでしょうw
それはともかくとして,この作品は伊坂氏の中ではかなり異色の作品といえるでしょう。私の中での伊坂氏のイメージは,伏線は必ず回収する,用意した設定は必ず生かす,しっかりとオチをつける,といった風な,きっちりとした感じなんです。しかし,この作品では,鍵になると思われた「腹話術」の設定は何の役にも立たないし,「呼吸」に至ってはオチがつかない。正直,伊坂氏がこんなことするなんて思いませんでしたよ。でも,このことは「魔王」という作品にとってプラスでもマイナスでもあったのでしょう。実際,「腹話術」が何の役にも立たないからこそ,「魔王」のラストは素晴らしいのだと思いますしね。
ちなみに,「図書館で本を借りよう〜保管庫〜」さんは,この作品の次に出版された「砂漠」の書評で,次のように書かれています。

「魔王」で考えろ、考えるんだと訴えた著者の、ひとつのアンサー・・と言っているのはネットの書評、感想を見回してもぼくだけ。この作品の主人公の一人である西嶋が語り、行動することは「魔王」のひとつの回答だと、ぼくは信じる。


この書評には,思わずひざを打ちました。例えば,次の一説は「呼吸」での潤也が語っている部分なのですが,

「兄貴はいつも言っていたんだ。人間ってのは,特に頭が良いやつほど,平和とか健康とかをダサいと思うって。…(だから)どんなことも,平和や健康とは逆方向に進んでいくことになってるんだよ。ずるずると,磁石にひっぱられるみたいに,物騒な方向に向かっていくんだ。兄貴がそういってた」


…「砂漠」に登場する西嶋の「ダサかっこいい」キャラクターは,まさにこの言葉に対するアンチテーゼだよなぁ。


3位 ジェネラル・ルージュの凱旋 海堂尊ジェネラル・ルージュの凱旋

正直,MYSCON8でのトークショーを見に行かなかったらこのシリーズ読み続けてなかっただろうと思います。「チーム・バチスタの栄光」は私にとって,それほど魅力的ではなかったんですよね。しかし,シリーズ第3弾のこの作品は文句なしに面白い!なにより,「エシックス・コミティー」や「リスクマネジメント委員会」での議論がまぁ熱い。それも,この場面に至るまでに速水や沼田のキャラをしっかり作り上げているからこそなのだと思います。
伊坂氏のような「うまい」作家さんではないとは思うのですが,本能的に読者を楽しませるということを理解している方なのでしょう。「チームバチスタ」シリーズの番外編にあたる「螺鈿迷宮」も読まないと。


2位 涼宮ハルヒの消失 谷川流涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

こちらもシリーズもの。「憂鬱」もなかなか面白かったのですが,「消失」を読んだときには正直驚きました。こういう漫画チックな内容・設定だからこその感動みたいなものもあるんだなぁと思いました。特に,私は子供の頃から全然漫画を読まなかったので。
「1巻で張った伏線を2巻で使って落とす」みたいな手法は,続編前提のシリーズ物に独特なところがありますね。特にライトノベルはシリーズ物が多いので,こういう手法がよく用いられるのでしょう。この手法だと,場合によっては1冊のオチが弱くなることもあり一長一短ではあるのですが,少なくとも「消失」という作品はシリーズ物だからこその傑作。確かに2巻なんかはちょっと足りないなぁ,とは思いますが,とりあえず1巻読んで楽しめた人は必ず4巻まで読みましょう!
ちなみに,話題になったアニメ版はこんな感じです(嘘)。


1位 沈黙 古川日出男沈黙/アビシニアン (角川文庫)

恐ろしいほどに引き込まれた本で,この本読んでいたときは物語の世界が夢にまで出てくる始末でしたw なんともいえない不気味な雰囲気がたまりません。
古川氏といえば,物語の「筋」なんてのは枝葉末節の一つにすぎない,という感じで書かれているイメージがあるのですが,この作品は比較的筋がしっかりしていた感じがしました。三つの物語(薫子,ルコ史,鹿爾)を絡ませる手法は,無茶苦茶ではありますがあまりにも見事でしたし。また,世界観は相変わらず圧倒的。特にルコ史の部分は壮大で,同じ「偽史」ものの「ベルカ,吠えないのか」が楽しめた方にはぜひお薦めしたいですね。古川氏の作品の中ではあまり知名度のない作品かもしれませんが,少なくとも私にとっては,「ベルカ…」とともに古川氏のベストといえる作品でした。
…余談ですが,文庫版には「沈黙」と「アビシニアン」の二作が掲載されているのですが,私は「沈黙」があまりにも圧倒的だったで,「アビシニアン」はそれほど覚えてないんですよねw しかし,書評サイトなどを回っていると「アビシニアン」のほうが面白いという意見も結構あるようです。やっぱり,古川氏の作品って個人によって随分と違うんだろうなぁと思いました。


…こんな感じです。とりあえず思ったのは,継続して読み続ければ面白い本に当たるものだなぁということでしょうか。あと,「涼宮ハルヒ」シリーズが予想以上に面白かったので,またなにかシリーズ物のラノベにも挑戦してみようかな。