「バッカーノ! The Rolling Bootlegs」

禁酒法時代、ニューヨーク。裏組織“カモッラ”は重要な儀式を数日後に控えていた。泥棒カップルはグランド・セントラル・ステーションに着いたばかりだった。マフィアの三兄弟はちょっとした問題を抱えていた。チンピラの少年は思い通りにならない現実にムカついていた。職務に忠実な警部補はそんな彼らを疎ましく思っていた。そして、錬金術師の野望は200年を経て、未だついえる事はなかった。彼らはまだ、互いに関わりの無い者同士であった。このマンハッタンに“不死の酒”が蘇るまでは―。第9回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞作。


意外な友人から意外な作品を貸していただいたので読んでみました。最近,友人に借りた本ばかり読んでいる気がする…。


伊坂幸太郎ラッシュライフ」のようなタイプの作品ですね。様々な人物達がばらばらに登場して,最後の場面になって物語が収束していく,という構成になっています(もっとも,「ラッシュライフ」のほうはこの作品よりももっと複雑な構造になっていますが)。それなりに複雑な構成ながらも,それをさらっと書けてしまっている印象で,さすがにうまい作家さんなのだろうなぁと思いました。


さて,いくつもの物語が平行して語られて,それが一点に収束する,という物語の場合,次の二点がポイントになると思っています。一つは当然,収束する場面をいかに鮮やかに描くかという点です。そしてもう一つは,収束する以前の伏線を張る段階で,読者をいかに飽きさせないか,と言う点です。この作品の場合,前者に関してはきっちりとしていますが,後者についてはちょっと弱いかなぁと思います。


おそらくその理由は,ページ数のわりに登場人物や発生するイベントが多すぎるために,キャラクターの一人ひとりやイベントの一つ一つに,どうも魅力が感じられない,というところなんでしょう。特に,(おそらく)主人公であるフィーロについては,もうちょっと背景を描いて欲しかったなぁと思います。例えば,フィーロはマルティージョ・ファミリー(いわゆるマフィアの組織みたいなところ)の仲間達を大事にしていますが,なぜ幼くしてマルティージョに入ったかなどの背景については,とってつけたような説明がちょこっと書かれているだけ。マルティージョの仲間達とフィーロとのつながりについての描写が弱いために,フィーロがマルティージョの「幹部」になったときの宴会のシーンも,それほど印象的にはならなかったように思います。まぁつまり,魅力的なエピソードやらなにやらという,ディテールの部分がちょっと弱いんでしょうね。少ないページ数の中に,ちょっといろいろと詰め込みすぎてしまったという印象です。


ただ一方で,アイザックとミリアの存在は面白かったと思います。この二人の設定ってとんでもなく漫画チックで,最初はちょっと苦手な感じがありました。しかし,彼らの役割(トラブルメイカー?)を理解するに従い,彼らの行動が馬鹿らしければ馬鹿らしいほど面白くなっていきました。物語の枠組は度重なる偶然によって作られているわけですから,馬鹿らしい偶然であればあるほど話も面白くなるわけですよ。なんたってタイトル自体が「バッカーノ!(大騒ぎ)」ですし。彼らの存在が,この物語を盛り上げているんだと思います。


いろいろ書きましたが,それなりに楽しめるエンターテイメント作品だと思います。萌えキャラとか出てこないんで,そういったライトノベルが苦手な人でも手を出しやすいかも。