銀河英雄伝説(4巻〜5巻)


結局,創元SF文庫版を待ちきれずにBOOK OFFで購入してしまった…。というわけで,銀河英雄伝説の5巻まで読了いたしました。いやぁ,なかなか途中で止められないもんですねぇ。


4巻では,銀河帝国内での内乱でラインハルトに敗れ去った旧貴族たちが自由惑星同盟領で亡命政権を作り,それが引き金となって5巻ではついに銀河帝国自由惑星同盟へ攻勢に出る,というところでした。なんと言っても面白かったのは,物語が大きく動いた5巻。帝国軍・ラインハルトと同盟軍・ヤンの直接対決,さらには両者の初めての会合シーンなど,まさに見所満載でした。ペテン師…もとい奇跡のヤンがとにかく奮闘します。そして,それに比べて同盟側の政治家達が無能すぎw


物語の始めのほうから,専制政治と民主政治の対比で物語は進んでいて,4,5巻になるとそのテーマ性がより明確になってきています。ラインハルトによる軍事独裁体制が完成された銀河帝国は,内政においても順調。そして軍事的にもラインハルトが自由裁量を持っているため,「対同盟」という大局からの戦略をしっかり立てて,その上で実際の戦闘での戦術を練ることができています。一方の同盟は,最高評議会(内閣ですね)の無能のため,内政はがたがた,軍事においても戦略的にではなく,政略的に作戦が決まるという始末。そのため,最高評議会の決定に従う立場であるヤンは,戦闘が開始される時点で,毎回のように後手後手に回ることになってしまいます。やはり,優秀な統治者がいる専制政治は,意思決定の早さ,そしてその決定の質において,意思決定に政利政略が大きく絡んでくる議会制民主主義よりも優れていると言えるでしょう。


しかし一方で,専制政治の難しさも徐々に見えてきています。5巻でヤンが言ったように,帝国の君主たるラインハルト一人が倒れれば国全体が動揺するおそれがあります。その理由の一つは,政治家としても軍人としても天才的な能力を持つラインハルトのような人間はそういないため,誰が後継者となっても国の舵取りが難しいとことです。しかし何よりも大きいのは,後継者が順当に決まる可能性が低い,と言うことでしょう。特にラインハルトには,5巻の時点でも子供がいないため,後継者争いはより熾烈になるおそれがあります。まぁ,仮に子供がいたとしても権力の移譲って難しいんですよね。独裁国家北朝鮮でも,金正日に何人か息子がいるためにごたごたがあるようですし。
実際,某人物が野心を抱いているという描写も出てきていますし,現状では順調に着ているラインハルト体制の帝国も,今後はどうなるかわからない感じがあります。いずれにしても,専制政治に対して議会制民主主義がなぜ最善かと言えば,長期的視野で見た場合に安定していると言う点です。そのあたりの違いが,巻を重ねるごとに出てくるのではないでしょうか。


…それにしても「専制政治下で自由に裁量を振るえる英雄」と「民主主義下で両手をふさがれた状態の英雄」という対比はなかなか面白いものですね。もちろん,この物語のテーマはそれだけではないでしょうが,そんなことにも目を向けつつ今後の展開に期待したいと思います。