「銀河英雄伝説 7巻〜10巻」


正伝10冊,読みきりました!いやぁ,とにかく楽しませていただきました。これほど長い作品を読んだのはおそらく初めてになるでしょう。

シリーズものとして,全体的に完成度の高い作品でした。大きな物語の流れはもちろんありますが,一つの巻で一つのエピソードをしっかり完結させているため,1冊読み終えたときに「物足りなさ」は全然なく,十分に満足できました。同じシリーズものでも,「涼宮ハルヒ」シリーズは伏線めいたものを何度も示すんだけれど,物語は遅々として進まないという状態になっちゃっていますからねぇ。それと比べると,すべての巻で見どころを作りつつ,しっかり10巻で話をまとめたこの作品が,いかにシリーズ物として完成度が高いかがわかる気がします(とはいえ,「涼宮ハルヒ」シリーズは4巻が素晴らしかったもんで,なかなか止められないんですが)。
ちなみに,私が好きだったのは3巻と5巻。どちらも戦闘シーンが燃えるんですよねぇ。また5巻は,話の流れの中でもかなり重要な話になっています。それとは逆に,7巻はもう二度と読みたくない!w いや,つまらないと言う意味ではなく,辛くて読めません,と言う意味でw


次に,民主主義と専制主義の比較という意味で言うと,最後は少し弱かったかも。なぜ民主主義を守らなければならないか,という議論は多く出てきたのですが,民主主義の優位性を示すようなエピソードがもう少し示めされていればなぁ,という感じはしました。まぁ,専制主義では君主たるラインハルトに頼る部分が大きすぎる,ということは示されていて,それが民主主義の優位性を示す材料の一つではあったのでしょうけど。ただ,積極的に民主主義の利点を示すエピソードってあまりなかったんですよね。どちらかと言えば,トリューニヒトに代表されるような欠点ばかりが目立った印象です。民主主義の優位性を,理論としてではなく印象に残るエピソードでうまく示せれば,民主主義と専制主義の比較というテーマがもう少し深まったのかなと思います。
ただし,「政治体制が異なる国同士の共存」という観点,つまり「専制主義と民主主義との共存」というあたりまで書いていたのは面白かったです。なんというか,民主主義を押し売りするアメリカへの批判に聞こえなくもない内容ですがw ただ,例えば発展途上国でときどき見れれる「開発独裁体制」という政治体制なんかは,民主的でないから止めろ,といえないところもあるんですよね。民主主義は手続きが煩雑になるため,どうしても意思決定が遅れたり,極端な政策を取りにくくなったりします。その点,急速な経済発展が急務である途上国では,政府に強力な権力を与えてでも意思決定を早めて,経済発展を優先させる…という考え方もある程度の説得力を持つようになります(用は,会社組織って絶対に民主主義じゃないということと同じです。純粋に利益を出す組織として考えた場合,民主主義なんて時間が掛かり過ぎて話にならないということですね)。まぁ簡単な話,貧困に苦しむくらいなら,多少人権を侵害されるリスクを負っても…ということですね。このような政治体制を積極的に支持するのは難しいんですが,必要悪である可能性は否定できないと思うのです。だから,国情に合わせて最適の政治体制がとられる必要はあっても,すべての国が民主主義で無ければならない…というのは,確かに違うのかなぁという気がします。


まぁとにもかくにも,これだけの長い物語を見事に書き上げた田中芳樹先生に感謝です。いやいや,本当に楽しませてもらいました。
ちなみに,ヤンがよく飲んでいた「紅茶にブランデー」をこの前やってみたんですが,これがなかなかいけるw これから徐々に寒い季節になってくるので,紅茶ブランデーはなかなか良いかもしれません。…次はホットパンチやってみるかなw