「あなたがここにいて欲しい」

懐かしいあの日々、温かな友情、ゆっくりと育む恋―僕は、守り続けなきゃならない。『100回泣くこと』の中村航が贈る、静かで優しい物語。


私が読んでいる中で,女性に薦めたらモテそうな作家No.1といえば中村航氏でしょうw おそらく,私はまったく対象読者に当てはまっていないのでしょうが,それでもやっぱり楽しめてしまうんだよなぁ。オシャレ感のただよう文章書く人なのに,吉田くん(内向的な理系男子)や又野君(ヤンキー)を書けちゃうから,私のような人間でも楽しんで読めてしまうんでしょうね。


「あなたがここにいて欲しい」「男子五編」「ハミングライフ」の中短編3作が収録されている中で,面白かったのはやはり表題作である「あなたがここにいて欲しい」。同氏の作品「夏休み」に登場する「吉田くん」の過去の物語になっています。内向的でどこかとぼけたところのある吉田くんと,その親友で「正当な」ヤンキーである又野君の過去を軸とした物語,と言えばよいのでしょうか。それとも,吉田くんと舞子さんの恋愛物語,と言えばよいのでしょうか。いずれにせよ,何か大したイベントが発生するようなお話ではありませんw それでも,ふわふわとしたとらえどころのない文章は読んでいて気持ちよくて,楽しく読めてしまいます。まぁ,何かが心に残ったか,といわれるとそれほど残るものはないのですが,癒し系の作品として考えればよいのかなぁと思います(ちなみに作中で,吉田くんは「くん」付けで,又野君は「君」付けで書かれているんですが,二人のイメージの違いを示すための道具として,ちょっとよかったなぁと思いました)。


…ああ,結構楽しめたのになんか書くことがないw ということでどうでもいいことを。中村氏はちょくちょくギャグっぽい文章を入れてくるのですが,いちいちそれが面白いです。今回,個人的に妙にツボだったのが次の文章。

いつの時代もヤンキーは行き急ぐ。一通りの悪いことをし,それから卒業し,働いて結婚し,子供を産み,海(まりん)とかそういう名前を付ける。


あと,「男子五編」でバンドの顧問になってくれた北村先生のあだ名が「マグロ」から「半漁人」になるところで爆笑しましたw 日常的な,小さい物語を書く方ではありますが,それだけに細かい部分でのセンスは素晴らしいものがあるなぁと思います。


…それにしても,中村氏は最近恋愛小説書く人になってきているなぁ,という不安があったのですが,「あなたがここにいて欲しい」を読んでちょっと安心しました。「リレキショ」や「突き抜けろ」が大好きだった私としては,やはりこういった青春小説を書いてほしいのです。