「鹿男あをによし」

「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」
神経衰弱と断じられ、大学の研究室を追われた28歳の「おれ」。失意の彼は、教授の勧めに従って2学期限定で奈良の女子高に赴任する。ほんの気休め、のはずだった。英気を養って研究室に戻る、はずだった。あいつが、渋みをきかせた中年男の声で話しかけてくるまでは……。
慣れない土地柄、生意気な女子高生、得体の知れない同僚、さらに鹿…そう、鹿がとんでもないことをしてくれたおかげで、「おれ」の奈良ライフは気も狂わんばかりに波瀾に満ちた日々になってしまった!
「壮大な構想、緻密な構成、躍動するディテール、ちりばめられたユーモア…。これが二作目なんて信じられない。この作家は、いずれ直木賞を獲るだろう」と”本読みの達人”金原瑞人氏が絶賛した、渾身の書き下ろし長編。


和風なファンタジー世界を舞台にした,青春エンタメ小説…ということで,基本的に前作「鴨川ホルモー」と同じノリの作品だといってよいでしょう。主人公である「先生」のどことなく頼りない性格なんかも,「ホルモー」の主人公である安部と重なりますし,「かりんとう」の藤原先生も「ちょんまげ」の高村と重なります。基本的には予定調和的で,安心して楽しめるエンターテイメント,という雰囲気も前作と同じ。で,どちらが面白かったかといわれれば,私としては「鹿男あをによし」ですね。


話の前半,先生が「鹿男」になるまでの話は,正直ちょっと退屈でした。なかなか話が展開しないということもありますが,何に期待して読み進めればよいかがわからない,ということが大きかったです。前作では「ホルモーって何?」ということが気になってしまい,結構前半はするする読めたんですが,今回は前半部分を読んでいても,これから何が始まるのか全然わからないんですよね。だから,読んでいてどうにもノッテいけない。まぁ,そんなの気にしているのは私だけかもしれませんが,もう少し「先を読ませる工夫」があってもよかったかなぁと思いました。


しかし,先生が「鹿男」になって以降はなかなか面白かったです。この作品の目的がわかってきたから,ノリやすくなったということもあるでしょう。ただ,それだけではなく,途中の剣道シーンも盛り上がりましたし,その後の「サンカク」探しの部分も,まぁ盛り上がるというわけではありませんが,しっかりと話を畳んだなぁという感じで,なかなか楽しめました。


…ですが,やはり一番はラストでしょうw なんというか,もう,やりすぎ感だろうという感じですし,この歳になってこんなシーンを「よかった」というのはどうかと思うんですが,いや,良かったですよ,うんw 以下,ネタバレ。
涼宮ハルヒの憂鬱」での長門有希の「yuki> sleeping beauty」風にヒントを出すならば,このラストは「flying pig」もしくは「red pig」でしょうかw 私はあまりジブリ作品は観ていなかったんですが,あの作品だけは大好きだったんですよ。あれとまったく同じラストシーンを,まさかここに持ってくるとは…。いや,このラストは完璧ですわ。「別れのシーンである」という大前提があるだけに,余計にいいんだろうなぁ。


というわけで,前半がちょっとタルいかなぁとは思いつつも,最終的には満足でした。まぁ,前作「ホルモー」と同じノリなので,前作を楽しめた方であれば,まず間違いなく楽しめることでしょう。それにしても,前作のときにも思ったのですが,この人の作品は連ドラとか映画とかにすごい向きそうなイメージがあるんだよなぁ。ちょっと予定調和な感じがドラマっぽいかも,というところなんでしょうか。特に,「鹿男…」のほうは「ホルモー」に比べれば映像化はできそうなので(CGは必要だけれどw),ぜひ映像化してほしいですね。