「キノの旅11」

ある春の日。山からの冷たい雪解け水が、森の緑に活力を与え始める頃―――。
朝の日を背に受けて、キノとエルメスは、とある国を見下ろす山の上にいました。あとはもう道を下っていくと、そこにある森に囲まれた広い城壁の中へと、城門へとたどり着く場所でしたが、「こりゃ入れないね、キノ」エルメスとキノは、そこから動こうとしません。見えるのは、国内のあちこちで上がっている火の手でした。たくさんの家が燃えています。風に乗って、薄く煙が、そして人間の悲鳴が聞こえました。キノがスコープで覗くと、人々が殺し合っているのがよく見えました。狭い国内で、たくさんの人がたくさんの人を、殴ったり切ったり、時に撃ったりしながら、朝のお日様と蒼い空の下で、延々と殺し合っています。(「お花畑の国」)

他全11話収録。口絵(カラーページ)三つ折ポスターも含めて14P。黒星紅白描き下ろしイラスト満載! 人気シリーズ1年ぶりに最新刊登場!! そして今回の“あとがき”は……????


キノの旅10」がどうにもダメだったので,最新巻も面白くなかったらそろそろ切ろうかなぁと考えていたのですが,今回はなかなか面白かったです。うん,これだったら次回作も買ってみようと思えます。


前巻の感想では,「キャラものになりつつある」「アイデアが面白くない」「長編はあかん」などなど,散々文句を書いていましたが,今回はそうした欠点は見られませんでした。キャラクター性は控えめですし(これは黒星紅白氏の挿絵にも反映されている感があります),ある程度オチのついた短編が複数掲載されていると言う,キノの基本パターンにのっとって書かれているしで,これでこそ「キノの旅」だろう,という感じがしました。
中でも面白かったのは「アジン(略)の国」。これは良くできた短編で,このシリーズの中で5本の指には入る出来だと思います。しっかりと国の設定を活かして,見事にオチをつけています(まぁ,文字数稼ぎはさすがにひどいとは思いますが…w)。多少設定に甘い部分はありますが(15年前の出来事が簡単に忘れ去られることはないですわな),これは純粋に面白かったですね。私がこのシリーズで期待しているのは,こういったアイデアの面白い短編なんですよね,やっぱり。


まぁ,他については特に書くこともありませんが,総じて「キノの旅」らしい雰囲気でよかったんじゃないかと思います。挿絵もいい味出してます。ライトノベルの挿絵は全体的に苦手なんですが(萌え絵が付いていると外で読めないw),このシリーズは例外で,挿絵が独特の雰囲気を醸し出していいんよね。なんか,モノクローな感じの風景だとか,顔のない人々だとかね。


…しかしこの作品,世間的にイメージされるライトノベルのイメージ(萌えだとか,ご都合主義だとか…)とは随分と違うだろうと思うのですが,それが大ヒット(シリーズ560万部だそうです)ってところに,ライトノベルというジャンルの不思議さがあるように思いますね。ラノベが苦手,という方にも是非手にとってもらいたいシリーズです。