「6ステイン」

愛する男を待ち続ける女、隠居した天才的スリ、タクシー運転手として働きながら機が満ちるのを待った工作員。心に傷を持ちながら、独り誇りを抱き続けた者たちの消せない染み。あきらめることを知らない6つの魂が、薄明の世界に鮮烈な軌跡を刻む。著者が織り成す切なく熱い人間讃歌、人生を戦うすべての者へ。


読んだのに感想を書いていない作品が増えているので,とりあえず簡単に書いてしまおう…。


自分でも意外なことに初の福井晴敏作品。どの作品も長〜いので手を出しにくかったのですが,この作品は短編集(6編)だったので入門編として読んでみました。


「エンターテイメント作家」としてとにかく評判の高い福井氏ということで,楽しみに読み始めたのですが,ちょっと期待はずれかなぁと思って読んでいたというのが正直なところです。なんとなく,設定はちょっと違うけれども似たような話が続くし,どれもいまいち盛り上がりに欠けるなぁ…と。やはり長編を得意としている福井氏ですから,最初にこの作品に手を出したのはちょっと失敗だったかも…。


などと思っていたら,最後の1編「920を待ちながら」が抜けて面白かった!これなら,読み進めていったかいがあったというものです。この作品全体に出てくる市ヶ谷(防衛庁)の「分業体制(システム)」(ミッションに参加している人間が,その全体像を教えられず,駒として働く)という状況をうまく使い,話をうまくミステリにしていると思いました。水門の管理室で,スナイパーであるコードネーム(?)「920」の恐怖におびえつつ,事件の全体像の見立てをめぐって須賀,木村,松宮が議論するシーンの緊迫感がたまりません。事件の真実も想像とは異なるところにあり,なるほどなぁとひざを打ちました。


また,小道具の使い方が実にうまいです。水門やら悪い血やらいろいろあるのですが,なによりも「しりとり」ですよねぇ。須賀と木村のしりとりのエピソードは,最初はギャグとして使われているのですが,これがラストシーンではいい場面で使われているんですわ…。伊坂幸太郎ゴールデンスランバー」での「痴漢は死ね」にもやられましたが,「しりとり」もよかったです。こういう小道具がうまく使われている話,大好きです。


まあそんな感じで,最終的には楽しめたこの作品。ただ,「920を待ちながら」以外の作品はやっぱりちょっとなぁ,という感じなので,私の中での福井氏の評価は保留といった感じ。今度は長いのにも挑戦してみないといけないかなぁ…。いやそれとも,ガンダム作品が先か?w