「さよなら妖精」

一九九一年四月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶のなかに―。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。気鋭の新人が贈る清新な力作。


こちらも旧ユーゴスラビアもの。これは「悪者見参」よりも前に読んでいたのですが,今感想を書こうとすると,「妖精=ピクシー(ストイコビッチ)」としか思えません…w が,ここでいう妖精は,ユーゴスラビアから来たマーヤのことですな。
前半はユーゴからきたというマーヤと,守屋を始めとする藤柴高校の交流をにぎやかに描き,後半はマーヤとの別れとその居場所をめぐるミステリーになっています。


私が楽しめたのはどちらかといえば前半。特に何があるというわけではありませんが,マーヤのキャラがしっかりと立っていて,なんでもない日常がなかなか楽しいです。本当に何のイベントがあるわけでもないのですが,まったく異文化から来たキャラクターがいるおかげで,いろんなことが面白く見えてしまいます。


ただ,どうにも主人公の守屋がいろいろ考え出してくる後半あたりから,ちょっと苦手な感じがあります。…これは好みの問題になりますが,どうもこの一人称が苦手だぁ。なんというか,斜に構えるのはいいんだけれども,どこかそれが鼻につくというか…。なんか,悩んでいるときにもちょっと自分を突き放したような書き方なんで,それ悩んでるにしちゃかっこよすぎね?みたいなw …そういえば,新城カズマ氏の「サマー/タイム/トラベラー」も,一人称が苦手で途中で投げた覚えがあったんですが,それも一人称が苦手だったからってのもあったなぁ。


さて,さきほども書いたように,私はこの作品を読んだあとに「悪者見参」を読んだのですが,「悪者見参」を読んでいたときに,マーヤのいった「7つ目の文化」という単語が頭によぎりました。「さよなら妖精」はスロヴェニア独立(1991年)の頃の話ですが,「悪者見参」では,そこから続くユーゴ崩壊の過程で,「7つ目の文化」どころか,「6つの民族」が互いに憎しみ合う姿が描かれていますからね…。もしかしたら,民族間の対立が生じてきたからこそ,それをまとめるために「7つ目の文化」という理想が必要だったのかもしれません。


というわけで,好みではない部分もありはしましたが,結果的には楽しめた作品でした。旧ユーゴについて少ししっていると,より楽しめるのではないかとも思います。