「石の花」

これもユーゴ関連作品。第2次大戦時でユーゴにナチスが攻め入った時期から,終戦に至るまでを描いています。


ユーゴについて,対戦時の話は読んだことがなかったので,興味深く読めました。特に,ナチスクロアチアの独立を宣言することで,セルビア人とクロアチア人の対立を煽っていたことを知り,どうしてもこの国には民族問題がつきまとってくるんだなと,うんざりさせられました。日本に住んでいる私などにはとうてい想像もできませんが,民族問題とはこれほどまでにも根深いものなんですねぇ…。


作品の内容はけっこう悲惨なもので,特に強制収容所での描写は見ていられないほどです。これは「夜と霧」という作品が下敷きになっているらしいのですが,強制収容所に入れられた人々の心理描写がやけにリアルで怖ろしいものがあります。


ただ,一つ一つのシーンはインパクトがあるのですが,一つの物語としてみると,私にはあまり理解できませんでした。戦後の話なんかから,作品全体で何を主張したかったのかはある程度理解できるのですが,それが作品全体から読み取れるかというと,うーん…という感じです。作中,ところどころに哲学的な会話が挿入されますが,それもどうにもとらえどころがなくて…。私にはちょっと難しすぎる話なのかなぁ…。
そういえば,ミステリ仕立てにしていたギュームの話もあまりはっきりしませんでしたしねぇ。


とはいえ,けっしてつまらないわけではありませんし,印象に残る作品ではありました。特に,坂口尚氏は漫画好きの友人が絶賛しているので,漫画が好きな人にはお薦めかも知れません。