「夏のロケット」

火星に憧れる高校生だったぼくは、現在は新聞社の科学部担当記者。過激派のミサイル爆発事件の取材で同期の女性記者を手伝ううち、高校時代の天文部ロケット班の仲間の影に気づく。非合法ロケットの打ち上げと事件は関係があるのか。ライトミステリーの筋立てで宇宙に憑かれた大人の夢と冒険を描いた青春小説。第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞のデビュー作。


初めての川端氏の作品。なんとなく気にはなっていた作家さんだったので,やっと読めたなぁという感じです。さすが,元々記者をやっていた方だけあって,本文中にでてくる新聞記事の要約などが,とてもしっかりした文章になっていますw 有川浩の作中に出てくる新聞記事なんて,本当にひどかったもんなぁw


ロケットものとしては以前に「第六大陸」を読んでいますが,私の場合はこの「夏のロケット」のほうが好みですかね。確かに「第六大陸」のほうがスケールの大きい話ではありますが,物語として魅かれるのは「夏のロケット」でした。なんたって,大人になった高校の仲間達が集まって秘密基地(無人島)でロケット飛ばすんですもん。秘密基地ってところがポイントで,やはりこういうのに憧れる部分ってどっかにあるんですわ。ロケットというあまり知られていない題材を扱っている以上,説明的にならざるを得ない部分はありますが,それでもワクワクしながら読めました。


「ロケット班」の面々は,研究者,商社マン,ロックスター,新聞記者と,とんでもない人間ばかりで,最初はこの設定はやりすぎかなぁとは思いました。私の場合,あんまり凄い人が集まっている状況というのには,どうもご都合主義的で苦手だなぁと思うことがありまして(…たぶん,ハイスペックな人間が揃いすぎてて良くわからん状況になってしまった「僕らの7日間戦争」シリーズがトラウマなんだろうなぁ)。ただ,この作品の場合は物語の中でメンバーそれぞれの役割がしっかりと計算されていたんで,読み進めるうちにあまり気にならなくなりました。


面白かったのは「ロケット」と「ミサイル」が同じものであるという,ロケット史の裏の面が強調されていることです。詳細なことは作中に書かれていますが,そのロケット史の表と裏が,まさにロケット班の挑戦にも影を落とすことになります。ロケット班の面々のロケットに賭ける情熱も,一歩間違えればその技術が殺人兵器の製作に手を貸すことになってしまう…。そのことが,なんともいえない皮肉だなと感じました。
科学者の情熱は宇宙への夢にもなれば,多くの人々の殺戮という悪夢にもなるわけですね。そういう意味ではロケット班の思想的な方向性を形作った高野(新聞記者)の役割は大きかったと思います。


最後にちょっとだけ不満を書きますと,せっかく高校の同級生を集めてのロケット開発なんですから,高校でのエピソードなんかも交えて,和気藹々といった雰囲気があればよかったかなと。ロケット班の面々の会話は,殺伐としていてあまり仲のよさが感じられないんですよね。秘密基地,高校の仲間達,ロケット…と,楽しげな設定が満載なだけに,そのなかでもう少しキャラクター達が魅力的であればなぁと思いました。