「死者のための音楽」

…おばあちゃん、まるで後を追うみたいだったね。病院で、返事をしないおばあちゃんにむかって、話しかけてたよね。「ねえ、音楽は聞こえてる?」(「死者のための音楽」より)。怪談専門誌『幽』の連載で話題騒然の作家、待望の初単行本。


和風のホラータッチで描かれる7編の短編集。ちまたではもっぱら乙一,と噂される覆面作家の山白氏の作品です。読んでみたところ,確かに乙一でしたw


和風ホラーの雰囲気にあまりなじめなくて,どうにもしっくりこなかったのですが,最後の2編の短編は面白かったです。特に「鳥とファフロッキーズ現象について」は,まさに私の好きな角川スニーカー時代の乙一作品そのもの。年に1,2本だけでもよいので,こういう短編をコンスタントに書いてもらいたいっす。


角川スニーカー時代の乙一作品は,日常にファンタジーっぽい不思議な設定を一つだけ用意して,その仕掛けを巧みに使ってオチに持っていくというパターンでした。「平面いぬ」(刺青の犬が動く),「Calling You」(心の中の携帯電話),「傷」(痛みを引き受ける能力)などがこのパターンの典型でしょうか。まぁ,私の大好きな「未来予報」や「しあわせは子猫のかたち」,「はじめ」なども,このパターンの一つではあるんですけれど。


「鳥とファフロッキーズ現象について」では「鳥」が不思議な設定の役割です。ラストでは,「鳥」の設定を使ってきれいにオチに持っていきます。この設定の使い方,話の作り方の上手は,さすが「短編の名手」。スニーカー時代の乙一が好きな方は,この短編は必読です(スニーカー時代に比べるとちょっとエグいですけどね)。


また,表題作の「死者のための音楽」もなんだかよかった。こちらは「鳥とファフロッキーズ現象について」のような,しっかりとオチのある作品ではないんだけれども,手紙形式で語られる母と娘の思い出話に優しい気持ちにさせられました。…具体的に何が良いのかはわからんが,とにかくいいです。


ちなみに,この作品が好きな乙一ファンって,どの時代の乙一が好きだった方なんでしょうかね?ホラーという意味では「石の目」とかなんでしょうけれど,どちらかというと「ZOO」なのかなぁ…。