「MM9」

地震、台風などと同じく自然災害の一種として「怪獣災害」が存在する現代。日本を襲い来る多彩な怪獣たちと戦う気象庁特異生物対策部、通称・気特対部員たちの活躍を描く。『ミステリーズ!』掲載に書き下ろしを加え単行本化。


今まで読んだ山本弘作品(「アイの物語」「神は沈黙せず」「闇が落ちる前にもう一度」)はどれも面白く,頭の中の「新作出たらすぐに買おう!」作家リストに入っていたのですが,それが「怪獣物」と来たんでさすがに躊躇してしまいました。私はまったく怪獣世代ではなく,ゴジラとか全然見ない環境で育っていたので,基本的にはあまり興味ないんですよ。大好きな有川浩の「海の底」も,怪獣は危機的状況を作るための道具というイメージで,本格的な怪獣物ではありませんでしたしね。だもんで,すっかり読むのが遅くなってしまいました…。


が,しかし。そんな怪獣物なのに文句なしに面白い!いやぁ,さすがは山本弘。怪獣にも「多重人間原理」という架空の理論をぶち込んできて,しっかりとSF作品にしてしまいます。この理論がまたわけがわからなくて凄いんだわw 「神は沈黙せず」では,物理学に反する出来事をかき集めてきて神の存在を証明してしまった山本氏ですが,今回は物理学に反する体の仕組みを持つ怪獣達を我々「ビックバン世界」とは別の「神話世界」から来た存在として扱ってしまいます(「物理学に反する現象」ってのは山本作品でちょくちょく出てくるキーワードな気がします)。これだけでは何のことやら,という感じだとは思うので,気になる方は読んでみてください…。


山本氏の作品の面白さの一つは,科学的なネタを使ったとてつもない大ホラ吹きなんですが,物語を支えるSF部分について,わかりやすく解説してくれるってのもありますね。私はどうも科学には疎いんで,あまり難しいことはわからないんですが,山本氏の作品なら解説があるので読めてしまうんですよ。しかも,そのネタがしっかりと作中の「仕掛け」としてうまく働いている。ほんと,氏の作品を読んでいると「SFっておもしろい!」って素直に思います。


さて,肝心の怪獣対「気特対(気象庁特異生物対策部の略称。怪獣と戦うのはなんと気象庁!)」のバトルもなかなか面白かったのですが,個人的には「脅威!飛行怪獣襲来!」の対グロウバットがおもしろかったかなぁ。小さい怪獣ながらも,ある理由から簡単に打ち落とせない。その緊迫感があって,対決シーンとしては一番面白かったです。ただ,全体的にはやはり最終章「出現!黙示録大怪獣!」でしょう。もう,神話やら何やらいろいろウンチクを持ち出してきてものすごいことにw そんなものまで怪獣扱いですか?みたいなねw


とにかく,この作品で私の山本弘株はさらに上昇いたしました。そんなわけで,現在は「まだ見ぬ冬の悲しみも」に取り掛かっております。。。


…関係ないですが,「第1話 緊急!怪獣警報発令!」について,山本氏が自身のホームページで「これを書いた後で、有川浩『海の底』を読んで、ネタがかぶっててへこんだ(笑)。しかもあっちの方が面白いし。」と書いていたのを読んで笑ってしまった。まさにおっしゃるとおりなんでw まぁ,MM9の場合はバックにある背景部分が面白い作品なんで,第1話目じゃあ仕方ないですわね。