「DRAGON BUSTER 01」

虐げられる民“言愚”の青い目を持つ涼孤は似顔絵描きと講武所の下働きで糊口をしのぐ。かつて胡同の闇の中で、素性の知れぬ老婆より剣を習い、双剣を授かる。卯王朝、第十八皇女の月華は屋敷を抜け出しては市井を探検する。感情が高ぶると地団駄を踏みながらぐるぐる回る癖がある。涼孤はどぶ川の畔で双剣を持ち“龍を呑む”。月華はそれを目撃し―「妾も剣をやるっ!」鬼才・秋山瑞人が贈る、剣をめぐる物語。古橋秀之とのコンビによるシェアワールド企画“龍盤七朝”第一弾登場。


ミナミノミナミノ」以来、3年ぶりの秋山瑞人の新刊。私が今まで読んできた中で、秋山瑞人桜庭一樹に次いでインパクトのあるラノベ作家なんです。そんなわけで、発売日1日前に某所のアニメイトでこの作品を購入しました。人生初のアニメイト。しかも会社の昼休みに、胸章はずして入りましたw
寡作な上に、まともに完結した作品があまりない著者であるだけに、この作品がきちんと完結するのかかなり不安です…。しかし、「ミナミノ…」はともかく、これは終わってもらわないと本当に困る!いやはや、面白かったです。


この巻ではそれほど話の展開があるわけではないので、ストーリーについてはまだ云々言えませんが、中華ファンタジーの設定は思った以上に入り込みやすかったです。あまりこういう設定の作品って読んだことないのですが、意外と好きなのかも。古橋秀之の「IX(ノウェム)」も面白かったし。やたら難しい漢字がいっぱい出てきてわけがわからなくなることもあるのですが、そこは電撃文庫。送り仮名つけてくれるんで助かりますw


そしてなにより、この人の独特の文体に引き込まれました。というか、今までの作品に比べても、文章が洗練されてきた感じがします。今まで読んだ「イリヤの空、UFOの夏」「猫の地球儀」では、独特の勢いのある文体が魅力的である一方で、筆が乗り出すと主語がころころと入れ替わるなど、ちょっと読みづらいと感じる部分もあったんですよね。しかしこの作品ではいつも以上に丁寧に書かれていましたし、もちろん「秋山節」も健在で、もう言うことなし。よかったです。


さて、この作品を読んでいてどうしても考えてしまうのが、これってライトノベル?ってことです。いや、ヒロインの月華(ベルカ)のキャラクターなんかは完全にラノベだし、次巻以降はチャンチャンバラバラの剣劇が描かれるのでしょうけれど、細かい描写までみっちりと書き上げる文体や世界観からいって、一般の読者にも受け入れられると思うんですよね。本当に面白い作品であるだけに、電撃文庫から出版されることで読者層を狭めてしまうのは残念な気がします。
とはいえ、主要キャラに被差別民族や売女を当たり前に出してくるなど、ラノベ的ではない描写も当たり前のように出てくるあたり、ラノベ的制約とかはなしに自由に書かせてもらっている感じなので、不満はないですけれどね。


とにかく、面白いからラノベだと思ってなめてねぇで読みやがれ!ということですw ただし、続編は出てもおそらくは1年以上あと、下手したら出ないおそれもありなので、リスクは高いんですが…。ちなみに、「SIGHT」で大森望北上次郎に読ませると思うので、その感想もちょっと楽しみ。