「箆棒な人々」

戦後大衆文化に放たれた、激烈なるエネルギー――
康芳夫(マルチプロデューサー、虚業家)/石原豪人(挿絵画家、画怪人)/川内康範(月光仮面原作者、生涯助ッ人)/糸井貫二(全裸の超・前衛芸術家) 彼らケタ外れの偉人たちを追う伝説のインタビュー集。裏の昭和が熱く妖しくよみがえる。

サブカルチャー総合誌『クイック・ジャパン』創刊当初の名物企画から生まれた名著『篦棒(ベラボー)な人々』、待望の文庫化。 解説=本橋信宏


竹熊健太郎氏による、昭和のサブカルチャー会の巨匠たちへのインタビュー集。…とはいえ、インタビューイの方々をまったく存じ上げないんですよねぇ…。じゃあ何で読むに至ったのかと言うと、インタビュアーの竹熊氏のサイト「たけくまメモ」を見ていてなんとなく気になっていたところ、たまたま本屋で見つけたから、といった程度の理由です。


しかし、これはインタビューイの方々を知らない人が読んでも十二分に楽しめるインタビュー集でありました。帯の「昭和が熱い!」のキャッチフレーズに示されるとおり、巨匠たちの語る戦前戦後の体験が圧倒的で、現実味のなさすら感じるほど劇的で魅力的です。この現実味のなさの原因は、1983年生まれで豊かな時代に生きている私にとって、この時代は今とは地続きではない、切り離された時代として認識しているところにあるように思います。しかし、だからこそ彼らの時代を知っておく価値はあるなぁと思いました。そうでないと、今の価値観を「常識」として受け入れすぎてしまう危険性がありますからね。以下、4人の偉人のインタビューの感想を簡単に…。


康芳夫wikihttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%B7%E8%8A%B3%E5%A4%AB

もっとも荒唐無稽な人生を送っている方で、個人的には康氏も一枚噛んだという「猪木・アリ戦」のエピソードが面白かったです。過去に行われた伝説的な試合とはいえ、私の世代にとっては「モハメド・アリ」のスター性がいまいち理解できないだけに、ことの重要性がそれほどうまく理解できていませんでしたからね。なぜ猪木があれだけ伝説的になっているのか、またヨーロッパなどの海外でも有名なのかが少しわかった気がしました。


また、「呼び屋」として彼が連れてきた、ヒトかチンパンジーかわからない「オリバー君来日事件」ですが、私はこの出来事についてまったく知りませんでした。仮に今の時代であれば、これは一笑に付されておしまいというような出来事でしょうが、当時はそれがニュースとして新聞で報道されるほどには「真実っぽさ」を持っていたということなのでしょう。私が幼少の頃にも、しばらくは「オカルトブーム」の残滓のようなものはありましたが(テレビでのUFO特集、宜保 愛子、そしてなによりノストラダムス)、それでもさすがにニュースとして扱われる内容ではありませんでしたからね。…まぁ、UFOに関しては最近でも国防的な観点で話題となり、石破茂氏が大喜びで語っていたこともありましたがw あれは一種の政治ワイドショー的な扱いで、オリバー君とはちと違う次元ですわな。


石原豪人wikihttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9F%B3%E5%8E%9F%E8%B1%AA%E4%BA%BA

冒頭からいきなり、当時(戦前)の芝居小屋で美少年を見た女性達が潮を吹いているのを見た、という話から始まりますw どう考えても老人のほら吹き話なんですがw、それでも美少年やホモに対して女性が感じる性的なものというのは当時からあって、いまのBLにも繋がるものがあるんだろうなぁと妙に納得w そして実際、この本で紹介されている豪人氏の作品は確かにエロい。プロレスの「猪木対ブラッシー」を描いた作品なんか、これはエロいとしかいいようがないでしょうw 映画の看板やポスターから始まり、時代劇風の絵から怪獣ものまで様ざまな絵を描かれているそうですが、このインタビューからは「エロ」へのこだわりがとにかく強く感じられましたw 芸術家肌の人々の場合、これくらいこだわりや思い込みがあるからこそ、すばらしい作品を生み出すんだろうと思います。ちなみに、幼少時代の話も魅力的ですが、感想があまりにも陳腐になるため割愛。


川内康範wikihttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B7%9D%E5%86%85%E5%BA%B7%E7%AF%84

「おふくろさん」騒動の人だってことはあとがきで知りました。インタビューを呼んでいると、これだけ根がまっすぐで直情型の人に対して、不誠実な対応をしたら、そりゃあ絶縁にもなるわなぁと思いました。いや、騒動の詳細について私は知りませんし、当事者間にしかわからない事情や感情のもつれはあると思いますが、あくまで印象として。


印象的なのは彼が脚本家として成功するまでの道のりです。学校の勉強はまったくしない、小学校の卒業後にすぐに炭鉱で働く、金もないのに東京に出る、新聞勧誘の仕事でヤクザにボコられる、映画関係者の通っているビリヤード場で無理やり働かせてもらってコネクションを作る…などなど、とにかく川内氏のパワーに圧倒されました。周囲の人々にはかなり迷惑掛けているんでしょうがw、これだけ自分のやりたいことが明確にあって、その道に向かって突き進んでいけるのはちょっと羨ましくもあります。私の世代になると、どうしても桜庭一樹赤朽葉家の伝説」の第3部のように、何をやっていいのかわからない的な宙ぶらりんな感覚ってありますからねぇ。川内氏のインタビューを読んで、瞳子が昭和のたたら職人の一生懸命な生き方に憧れを抱いたのと、同じような感情を覚えました。自分ももう少し真剣に生きないといけないなぁと、やはりうすぼんやりとはしながらも感じました。


糸井貫二たけくまメモhttp://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/4_9495.html

通称「ダダカン」。裸体ハプニング芸術家?とでもいう偉大な方なんだそうでーすw とにかく路上で裸になる、ペニスを模した作品ばかり、さらには…いや、あまり書くのはやめておこうw どんな風貌の方であるかは、上記の竹熊氏のサイトで確認してくださいw

このダダカンのパートについては、周辺取材、ダダカンからインタビューの許可を得るまでの過程、そして実際に本人に会っての取材という構成になっています。彼の奇行の数々を見るに、やはり「イッている」人なんだろうと思ったら、意外にも竹熊氏に当てた手紙がきちんとしていてビックリ。もちろん私のような一般人とはまったく異なる感性をもっている方なのは大前提ですが、いわゆる狂人ではない人が、これだけ脱社会的な自分の生き方、芸術活動を貫いている姿にはある種の感動があります。これだけの「孤独感」に耐えるのは、私には絶対に無理です。ただし、そこまでして行った彼の行為、作品については、やっぱり理解できませんがw



ウィキペディアで経歴を見るだけでも、いろんな意味でものすごい人選になっていることがお分かりかと思います。彼らのことを知っている世代の方にも、知らない世代の方にもお勧めの、素敵なインタビュー集でした。昭和史的なネタはもう少し読んでいこうかなぁ。