「メディアの支配者」

・上巻
フジサンケイグループに突如襲いかかった堀江貴文と、必死に防衛する日枝久。しかし、その日枝自身、かつてクーデターによって鹿内宏明を追放した首謀者であった―。グループ経営の深奥に迫る。10年余りの取材、機密資料を渉猟した圧巻ノンフィクション。


・下巻
知謀の限りを尽くしてメディア三冠王の座を掴んだ鹿内信隆と、息子・春雄。一族がグループを支配するため、編み出された株式の魔術とは。堀江貴文につけいる隙を与えたフジサンケイの「秘密」を明かす―。すべての疑問への回答が、ここにある。驚愕の1400枚。


とにかくすごい情報量。よくもまぁこれだけ取材したなと思わせる力作で、講談社ノンフィクション賞新潮ドキュメント賞のダブル受賞も納得です。同じく二つの賞をダブル受賞した「戦争広告代理店」は、ボスニア紛争をPRした企業を取材するという非常にユニークな作品でしたが、こちらはフジサンケイグループの過去と現在をド直球で描いた作品といえるでしょう。


新聞社の内情について書かれたノンフィクションで、過去に読んだのは次の作品でしょうか。


・「メディアの興亡」 主に日経と毎日
・「渡部恒夫 メディアの権力」 読売
・「勝負の分かれ目」 主に時事通信と日経
・「メディアの権力」 ニューヨークタイムス、ワシントンポストなど


…というわけで、今までフジサンケイグループについて書かれた作品は今回が初めて。産経新聞読者である私としては、この作品はなかなか楽しめましたw しかしどの作品を読んでも分かるのは、メディア企業というのも一筋縄ではいかないということ。国有地の払い下げ問題なんかは、どの本を読んでいても出てくるしねぇ(ちなみに、国有地をメディア企業が譲り受けるという謎の習慣はアメリカなどにはないそうです)。この本によれば、現在フジテレビ本社があるお台場の土地を獲得するために、当時フジテレビ会長だった鹿内信隆氏が裏で鈴木元都知事に対して強力に働きかけていたそうです。この件は国有地の払い下げではないですが、メディア企業が政界への太いパイプを利用して云々、ということは、見えないところで当たり前のように行われているのでしょうね。言い方は悪いですが、メディアって政界に最も強いパイプを持つ企業の一つなんですから。


さて、この手の問題について知るたびに大手メディア(新聞・テレビを持っているところ)に対して失望感を抱くわけですが、一方でまともな一次情報(又聞きではなく取材した情報)を毎日配信してくれるのはこれらのメディアだけであることも事実。そこで私ができることは、メディアの裏側を知り、ある程度のフィルターを通した上で情報に触れることだけでしょう。大手メディアに失望したとして、まかり間違っても「R-25」みたいな二次情報で成り立っているメディア(しかも発行元はリクルート!眉唾眉唾…)なんかに頼るのは愚の骨頂ですから。同じ意味で、ブログなどの情報「のみ」に頼るのも違いますよね。


さて、本書の内容に少し触れると、初めはフジサンケイグループで起こった鹿内家追放という「クーデター」から話が始まり、そこから鹿内信隆が一代でどのようにこのグループを作り上げてきたかが描かれます。鹿内信隆経団連に深くかかわりを持ち、その会員企業から出資を受ける形でグループが出来上がった、という事実はまったく知らなかったので、とても興味深かったです。産経新聞が過剰に保守的なのは、単に職業右翼をやっているというだけではなく、元が財界メディアであるという歴史からもきているのでしょうね。そのほか、書かれていることについて触れるとキリがないので割愛します。ただ、鹿内一族フジサンケイグループという大メディアを私物化していく過程は圧巻です。そして、信隆夫人の始末の追えなさはある意味笑えましたw
あと、発行された時期が時期(2005年)だけに、ライブドアとフジテレビのバトルの内幕を期待する方もいるでしょうが、それについてはあまり触れられていません。しかし、この作品の取材がライブドア問題が発生するずぅっと前から行われているため、ライブドア問題についてもより本質的な情報が得られます。ライブドアにつけ込まれる原因となった株の問題についても取材されていますしね。ほんと、出版のタイミングに恵まれた作品ですね。


…しかし、あとちょっと待てば文庫化されそうな時期に、わざわざ買ってしまった自分は負け組みなんでしょうねぇw