「フリーランチの時代」

「私は人類をたいらげたい」―火星やまと基地の隊員4名が体験した、あまりにもあっけないファーストコンタクトを描く表題作、太陽系開拓時代に孤独な宇宙船を駆るニートの日常「Slowlife in Starship」、いつのまにか不老不死を獲得してしまった人類の戸惑い「千歳の坂も」、そして傑作長篇『時砂の王』に秘められた熾烈な闘いを描くスピンオフまで、心優しき人間たちのさまざまな"幼年期の終り"を描く全5篇収録。


小川一水氏の短編集。同じくハヤカワ文庫JAから出た同氏の短編「老ヴォールの惑星」に比べると、インパクトは弱いかなぁと思います。まぁ、そう感じるのはいろんな本と平行して読んでしまったせいなのかもしれないんですが…。ただ、作風としては比較的軽めの作品だろうとは思います。


フリーランチの時代

「あまりにもあっけない」ファーストコンタクトを描いた作品。SFチックなごちゃごちゃとした話を背景にしながらも、三奈と克美のコメディータッチな会話(宇宙での食事の話等)が楽しい作品。こういうノリは結構好きです。そして、このエイリアンの「ミナ」がいれば、同氏の作品「第六大陸」でもあんなに苦労することはなかったんだろうなぁ、と思ったのは私だけではないはずw 「第六大陸」では、宇宙でただ生活するだけでも大変だったのに、こちらの話ではカバーイラストのような状態でも生きらていられるのですからw


Live me ME

人間の意識、言い方を帰れば「魂」がどこにあるのかというお話、という感じでしょうか。事故でほぼ脳死状態だった女性が、「シンセット」というロボットとして生きることになります。山本弘の「奥歯のスイッチを入れろ」と同じような設定ですね。ただ、この作品はアクションものではなく、脳死状態からの回復の過程や、過去に例のない「シンセットで生きる女性」としてモルモットのような生活を強いられる女性の日常生活と、かなり地味w でも、ラストの結論部分には「おおっ」と思いました。


Slowlife in Starship

宇宙戦での日常生活を描いた作品。「Live me ME」もそうですが、起承転結がしっかりあるとか、伏線を張っておいてラストで回収するとか、そういった類のお話ではありません。本当にのんびりした印象の作品です。
むぅ、私は宇宙ものがとにかく弱いんだ。だってほとんどイメージがわかないんだもの。宇宙船の形状とか、言葉だけで説明するんじゃなくて、バシッと挿絵入れてくれないかなぁとか思っちゃいます。物体の形を言葉で伝えるのって結構難しいですからねぇ。まぁ、実際そういう挿絵が入っていることはほとんどないので(ラノベレーベルでも女の子の絵ばっかりだ!)、そういう要望って少ないんだろうけど…。


千歳の坂も

これは冒頭部分のアイデアが一番面白かった。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、「日本人、実は不老不死?」という冗談のような記事で不老不死に気づいた、ってくだりがよかったです。


アルワラの潮の音

長編「時砂の王」のスピンオフ。「時砂の王」は結構楽しんだ作品だったはずなのに、作品内での時間の概念とかなかなか思い出せなかった。が、アレクサンドルの「蟹から木を守る芋虫の話」で一気に思い出しました。やっぱりこの設定はいいよなぁ。個人的にはとても楽しめたのですが、「時砂の王」を読んでいない人にとっては、アレクサンドルやオーヴィルの登場があまりにも唐突に感じてしまうかもしれません。そんな方は、「時砂の王」も合わせて是非w


ざくっと感想書いてて思ったのが、「Slowlife in Starship」の感想に書いたように、全体的に起承転結がしっかりあるとか、伏線を張っておいてラストで回収するとか、そういうイメージの短編集ではないなということです(「アルワラの潮の音」はちょっと別ですが)。これはこれでよいのでしょうが、やはり私は「老ヴォールの惑星」のように、しっかりとオチのある短編のほうが好きかなぁ。
ちなみに、個人的には表紙のイラストがかなり好みだったりします。