TOKYO WAR MOBILE POLICE PATLABOR

謎の不明機が横浜ベイブリッジを爆破! 当初、テロかと思われたが、自衛隊の一部のクーデターという疑惑が持ちあがり、警視庁は全国の自衛隊基地を警備という名の下に監視を行った。時同じくして、特車二課隊長の後藤に陸幕調査部別室を名乗る男が現れ、ベイブリッジ爆撃の映像を収めたビデオテープを見せ、協力を要請してきた。
自衛隊と警視庁の一触即発状態のなか、さらに不明機が首都を目指して飛行する−−。劇場版『パトレイバー2』を押井守監督自ら書き起こした処女小説、ここに<完全版>登場!!


監督・押井守氏本人による「機動警察パトレイバー 2 the Movie」のノベライズ版。内容は映画とまったく同じ、それにプラスして特車二課第2小隊の面々のエピソードが追加されている感じです。確かに、映画版では特車二課のエピソードはあまりにも少なく、あの事件の中で彼らがどのように行動していたのかがわかりにくかったからですね(パトレイバーの映画なのにw)。 そのことは押井氏自身も当然感じていたようで、ノベライズ版のあとがきには次のように書かれています。

…構成のバランス、あるいは尺の制約や自主規制(!)等の理由で割愛せざるを得なかったさまざまなプロットや台詞、登場人物など。一度は思い決めて頭の片隅に放り込んだものの、なお未練がましく取り出してみてはため息をつく…ホント、未練ですね。
映画の公開後もまだ忘れられずにいる、そういった物語の切れ端をつなぎ合わせてもう一本の映画を作れたら、と―ノヴェライズのお話をいただいた時、まっさいに思ったのはそのことでした。…


というわけで、この作品は映画版の不足部分を補う「完全版」と言えるかもしれません。


単体の小説としての評価となると、映画版を見ている私には判断できません。なんせ内容が同じで台詞も同じなので、仮に小説としてはイメージしにくい表現があっても、頭の中にある映画版の映像で勝手に補って解釈してしまうのでねぇ。ただし、映画版に対して私が指摘した「正直、これだけ込み入ったストーリーなのであれば、映像よりも小説などに向くのではないか、とも思ってしまいます」という「欠点」を補うという意味では、これは完璧に成功しているといえるでしょう。例えば、警察と自衛隊が対立していく過程なんかは、明らかに小説版のほうが読んでいて分かりやすかったですし、東京を情報・交通の二つの点で「孤立させる」という戦略の意味合いも、より理解が深まりました。…まぁ、頭の回転の早い人だと映画版だけでも十分なのかもしれないんですが、私のように映画版で「あの場面の意味がよくわからなかった」というところがある人なら、読んで絶対損はないと思います。もちろん、特車二課のエピソードがないことに不満に思っていた方々にもお勧めです。


以下は蛇足。映画のほうを見ていたときにも感じたのですが、この作品は人が死ぬ描写がまったくないんですよね。柘植の部隊の目的が人殺しではないとはいえ、あれだけの規模で破壊発動が行われれば、当然死者も出てくるはずなのに…。いや、別に人が死ぬシーンが必要な作品だとは思わないのですが、あそこまでやって死者が見えないと逆に不自然というか、そこに何かしらの意図があったのではないかと考えてしまいます。湾岸戦争は「ニンテンドーウォー」といわれたように、アメリカが徹底的に取材規制を行ったことで、ミサイルが発射されるシーンばかりがテレビで流され、戦争の犠牲者が見えなかったことで有名です。で、なんとなくその辺になにかヒントがあるのかな、などと邪推しております。映画の公開も湾岸の時期と重なるからねぇ。


私信。会議室で後藤さんがごにょごにょと言っていた内容を小説版から抜き出します。

…戦線から遠のくと、楽観主義が現実に取って替わる。そして最高意思決定の段階では現実なるものはしばしば存在しない。…戦争に負けているときは特にそうだ。


やはり、ベストアンドブライテスト的な解釈に近いんじゃないかなと思いますよ。