「風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記」

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

父親と対立して、辺境に追いやられた若き騎士ルドガーは、赴任した領地でカエサル古代ローマを知っているという、不思議な街の守護精霊「レーズ」と出会う。実は彼女の正体は遠い星の彼方からやって来た巨大な異星生命体の対外感覚器官だった。ともに故郷を亡くし、固陋なキリスト教の因習に反発する二人は、中世ヨーロッパの海に面した三角洲に、今までなかった街「レーズスフェント」を作り、帝国自由都市を目指す。だが、街が発展するにつれて辺境伯ハンザ同盟の怒りを買い、同じく異星生命体と接触を持ったデンマーク国王との戦いへとつながっていく……。はたしてレーズスフェントの未来は?俊英・小川一水が、初のハードカバーで描く歴史SF!


■小川氏の筆力

小川一水氏の作品は何冊か読んできましたが、正直ここまで筆力のある方だとは思っていませんでした。「筆力」といったときに何を示しているかはかなり曖昧なんですが、ここでは乱暴に「ストーリー展開の面白さとは関係なしに、文章だけで読ませる力」と定義しておきましょう。もちろん、ストーリーと文章の面白さが純粋に切り離せるわけはないのですが、あえて乱暴にということで。筆力にも種類があるとは思いますが、特に筆力があるなぁと私が思っている作家さんは以下の方々でしょうか。


古川日出男…独特の文体やリズム。
冲方丁…伝説のカジノシーン!(マルドゥック・スクランブルですね)
秋山瑞人…文章の勢い。
桜庭一樹…ユーモアと、文章全体に漂う不気味さ、迫力。
伊坂幸太郎…軽妙洒脱な語り口。
森見登美彦…自虐的ユーモア。


さて、この作品では中世ドイツの雰囲気がとても心地よかった。正直、ストーリー展開としては、後に書くようにあまり私が得意ではないファンタジー的な展開なんです。しかし、苦手な要素がありながらも、文章が醸し出す雰囲気に完全に引き込まれてしまい、とても心地よい読書になりました。おかげで、2段組みの400ページを一気読みですよ。過去に読んだ小川氏の作品では、やはりSF的なアイデアで読ませる作家という印象があったのですが、これだけ文章で読ませる作家だったとは思いませんでしたねぇ。


■苦手なタイプのファンタジー

さて、この作品は一応はSFなのですが、実際には中世ファンタジーと言ったほうがしっくりきます。この作品でSF的な設定としてあるのは、レーズスフェントという街の泉に存在するレーズという女の存在。彼女は地球外生命体なんですが、街の人々には「泉の精」であると思われていますし、読む側としてもそう解釈して問題ない気がします。


この作品では、主人公のルドガーがレーズスフェントという新しい街を育てていく過程が描かれるのですが、危機の際にはレーズの超常的な力を借りて危機を脱していきます。この「レーズの力」について、ある程度のルールや限定が最初に示されていれば、限定された力の中でどのように危機を脱していくのかという点が見所になります。また、レーズが地球外生命体としてどのような特徴を持っているのかについて、どこかで種明かしするのであれば、過去にレーズが起こした奇跡に後から説明がついて、納得もできるでしょう。
しかし、この作品では「レーズの力」に限定がなく、またレーズがどのような存在であるかは(ほとんど)明かされないため、悪く言えば好き勝手に奇跡が起こせてしまうんですよ。もちろん、そこに面白さを感じる方もいるんでしょうが、私はこういう奇跡がどうも好きになれない。せっかく人間達がコツコツと頑張って街の危機を救おうとしているのに、レーズの奇跡で解決しました、ではどうも納得がいかんのです。


特にダメだったのが第三章。なんというか、人の成長を描くのにレーズの力を使うのはちょっとずるいと感じてしまいます。レーズの力を借りた上で徐々に考え方が変わっていくなら良いのですが、これは章の話だとほとんど洗脳だわなw ルドガーについては、レーズの存在によって成長していく姿が丁寧に描かれていて好印象なんですが…。あと、第六章についても、最終的には完全にレーズ頼みで解決だったんで、それが残念でした。


■小川氏はやっぱりロリ?w

以下はまったくどうでもいい話w 過去に読んだ「第六大陸」のヒロイン妙が最初に登場したとき、確か中学生くらいだったのよね。主人公の青峰と妙が結ばれるのは、それから10年後くらいになるんで問題はないんですがw あと、「時砂の王」でメッセンジャーのアレクサンドルが恋する少女も、結構年齢が下だったような…。まぁ、メッセンジャーは人じゃないから、全然問題ないんだけどなw
で、今回はヒロインのエルメントルーデの初登場が15,6くらいだったかな。もちろん、中世ドイツでの話なんでこれまた何一つ問題ないんですw ただ、過去の作品でも上記のような例があるんで、なんとなくそんなことを思ったしだいです。本当にどうでもいい話ですw



ごちゃごちゃと書いてきましたが、とにかく楽しく読める本でした。中世ドイツ関連は、桜庭一樹「ブルースカイ」以来だったかな。世界史が結構好きだった身としては、この辺の話ももう少し読みたいな、と思いました。