「皇国の守護者」

皇国の守護者 5 (5) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)
皇国の守護者 1 (ヤングジャンプコミックス)

長らく太平を謳歌していた島国<皇国>、その最北端・北領に突如、超大国<帝国>の艦隊が押し寄せる。<帝国>が誇る戦姫・ユーリアの指揮する精鋭部隊の前に、為す術なく潰走する<皇国>軍。剣牙虎の千早とともに、圧倒的軍勢に立ち向かう兵站将校・新城直衛中尉は、蹂躙されゆく祖国を救えるのか…!? 佐藤大輔・原作の同名小説を、俊英・伊藤悠が苛烈に描く戦記浪漫!


この漫画は、原作小説のプロローグ的な話(だと思われる)である北領(ほくれい)からの退却戦が描かれていて、そこでいきなり「完」となってしまいます。そのため、読み手としてはどうしても納得できませんし、消化不良です。しかし、退却という一つのミッションが完遂するまでの過程についてはきちんと描かれているため、打ち切りではありながらも、最低限のマナーは守っているかな?とは思いました。盛り上がってきたところで「完」となるよりは随分とましですからね…。以下、打ち切りのせいで消化不良な点と、打ち切りだけれども十分に楽しめた理由について書いていきます。


まず消化不良な点から。当たり前ですが、打ち切られるのが前提で書き始められたわけではないので、北領撤退以降の物語で核になるであろう背景設定の説明が、まさに無駄な説明になってしまいました。一番残念なのは、主人公である新城の生い立ちについての話ですよね。彼の生まれについての謎だったり、新城が慕う姉についてのことだったりがちらちらと書かれているのですが、結局は謎のままになってしまいました。また、新城のライバルとなるであろう帝国の東方辺境領姫ユーリアも、この戦ではそれほど活躍する場面がないため、表紙などで目立っている割にはインパクトのないキャラクターになってしまいました。キャラ設定的な説明はあって、ストーリーが進んでいけば魅力的なキャラクターになっていきそうなだけに、もったいないですよねぇ。。。


あと、ファンタジー的な世界観(サーベルタイガーを武器とする剣虎兵、離れたところから念力を使って索敵などができる道術兵など)が邪魔になってしまいました。退却戦後も話が続いて壮大な物語になるのであれば、世界観の設定にも徐々に慣れてきて、味が出てくると思うんですよ。しかし、描かれるのがあくまで戦争の一つの局面だけになってしまうと、それらの設定がただ突飛で、リアリティを奪うだけのものに見えてしまいました。


次に、打ち切りであっても楽しめた点について。この作品では、大隊のメンバーの絶対的なカリスマを「演じる」新城の姿を中心にして、新城の大隊が友軍を逃がすための捨石として戦う悲惨な退却戦の一部始終が、とてつもない迫力で描かれています。その姿はあまりにも壮絶で、この作品がはじめからこの戦だけのために描かれたと言われとしても納得してしまうほどのものです。少なくとも、「完結しないんだったらはじめから描かないほうがよかった」などとは口が裂けても言えませんね。


舞台が勝ち戦ではなく、絶望的な負け戦であったのもよかったです。新城というキャラクターの魅力が素晴らしく映える舞台設定でした。絶望的な状況下でも、新城は指揮官としての演技に徹することで、一方では兵達を強力に統率し、一方では恐怖で震える自身を鼓舞していきます。この、自身の臆病を認識しつつも、最善の結果を得るためにあくまで指揮官を演じ続けるというところに、新城の凄みが感じられました。勝ち戦ではない、絶望的な状況からこそ、新城の弱さ、強さ、非情さ、優しさ、狂気が余すところなく描けたのではないでしょうか。


結論としては、打ち切りでも読む価値あり、です。消化不良感はもちろんありますが、中途半端なところで終わっているわけではないので、まぁなんとか納得して読み終えることができる範囲でしょう。そして、打ち切りであることを補っても余りあるほど、魅力的な物語でした。
…ただ、この作品を貸してくれた友人に一言文句を言いたい。打ち切りだってことは先に言っておいてくれ!3巻あたりからさすがにおかしいなとは思ったけどさぁw