「とある飛行士への恋歌」

とある飛空士への恋歌 (ガガガ文庫)
とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

「これはきれいに飾り立てられた追放劇だ」数万人もの市民に見送られ、盛大な出帆式典により旅立ちの時をむかえた空飛ぶ島、イスラ。空の果てを見つけるため―その華やかな目的とは裏腹に、これは故郷に戻れる保証のない、あてのない旅。式典を横目に飛空機エル・アルコンを操縦するカルエルは、6年前の「風の革命」によりすべてを失った元皇子。彼の目線は、イスラ管区長となった「風の革命」の旗印、ニナ・ヴィエントに憎しみを持ってむけられていた…。『とある飛空士への追憶』の世界を舞台に、恋と空戦の物語再び。


2008年、口コミならぬ「ネットコミ」で話題となり、ラノベ界で数々の賞賛を浴びた「とある飛行士への追憶」。その続編にあたる「とある飛行士への恋歌」なる作品が発売されていました。「追憶」が予想外のヒットとなり、無理やり続編を書かされることになったんだろうなぁ、などと邪推しながらも、前作から著者の力量は確かだろうと思い、購入してみました。
読んでみると、この作品は「追憶」の続編と言うよりも「姉妹編」と言えるものだと分かりました。「追憶」と同じ世界を舞台としながらも、出てくる国や登場人物はまったく異なります。もちろん、主人公カルエルは、「追憶」と同様に飛行士ですが。そしてこの作品、まさかのシリーズものでしたw 前作同様、今回も1話完結の読みきりだと思い込んでいた…。1巻目は物語の序章に過ぎないのですが、前作同様、安心して楽しめるエンタメ作品として期待できるのではないでしょうか。


この作品で私が一番に評価したいのは、「追憶」では明かされなかった世界観の設定について、説明がなされるだろうという点です。「追憶」で登場した「大瀑布」(レヴァーム皇国・帝政天ツ上間の海に現れる端の見えない滝)などは、突飛な設定であるにもかかわらず、何の説明もなしにただ逃亡劇を盛り上げるための道具として、安易に用意されたという印象がありました。しかし、「恋歌」では、同じ世界の別の時代(または別の地域?)を舞台として、主人公達が世界の成り立ちの謎を明かすことがメインテーマの一つになっています。「恋歌」によって世界観が納得の行く形で説明されることにより、「追憶」世界観がより立体的になるのであれば、続編としては理想的な形ではないでしょうか。「大瀑布」の果てには何があるのかなど、「追憶」では明かされなかった設定も徐々に明かされるでしょうから、これは楽しみです。
(…もちろん、「追憶」はもともとシリーズではなく読みきり作品であったはずで、「恋歌」で語られる世界の成り立ちは、あくまで後付け的な設定なのでしょう。1話完結である「追憶」が予想外に売れたために、やむを終えず続きを書くことになり、無理くり設定を後付した…ありそうな話です。それでも、続編を書くにあたり、キレイに終わっているファナとシャルルの話の続きを無理に書くのではなく、別の主人公を用意して、書き込みの足りなかった「追憶」の世界観の設定を補足することにした、というのは、続編としてベターな選択だと思います。)


また、世界観が納得のいく形で説明してくれるかという点についても、なかなか期待が持てると思っています。「恋歌」では冒頭の主人公(カルエル)のやさぐれた独白「くそったれの旅へ出よう。これはキレイに飾り立てられた追放劇だ」が一つの謎かけ(というと大げさか?)となっています。「空飛ぶ島」イスラに乗って世界の謎を解く、という目的を持った旅がなぜ「追放」なのか?そしてその回答は、作中できちんと得ることができました(ここまでカルエルが絶望的な気分であったのか、と言われると、少し違和感があるんですけどもね)。こうした謎であったり伏線であったりに対して、きちんと説明を与える書き方をしてくれるのであれば、こちらとしても安心して読み進められますね。
(ちなみに、少し疑問だったのは、空飛ぶ島「イスラ」になぜ武装させているかということ。3国が友好の証としてイスラ開発プロジェクトにあたったのであれば、武装させちゃまずいわね。…物語に登場する3国以外にも、遠いどこかにはほかの国があるかもしれない、という前提があったのかしら?)


一方で不安なのは絵師がの方。人物の絵はよくて、女の子の絵も可愛らしいんですよ。いとうのいぢ先生くらいキャッチーな絵だとちょっと…と思ってしまう私でも、「恋歌」のクレアの絵(2ページ目折りこまれているカラーの絵)なんかは可愛らしいと思いますし。ただ、「追憶」では肝心の空戦シーンがあんまりにも貧弱だった…。そして「恋歌」では、飛行機ものにもかかわらずまともに飛行機が描かれた絵がないという。。。まぁ、「追憶」で描かれたクオリティーであれば飛行機を書かないほうがマシっちゃマシなのですが、そうはいってもこのまま描かないわけにはいかないだろうし…。次巻以降、こんな不安は杞憂であったとうなってしまうような、素晴らしい飛行機の絵を期待しております。


と、まぁごちゃごちゃと書いていきましたが、本質的にはボーイミーツガールの堂々たるラノベの王道なのです。細かいことは抜きにして、ただただ楽しめばよいのです!安易な萌え描写が少〜し気になるところもありますが(笑)、読んでいる間は物語の世界にどっぷりと浸ることができますよ。安心して楽しめるファンタジー小説を読みたいという方、「追憶」「恋歌」ともにお薦めです。