アニメ「とらドラ!」14話の感想


随分と時間が空きましたが「しあわせの手乗りタイガー」について。まとまらなかったので、3つの観点に分けて書き散らしました。ちなみに、ネタバレしかないので見ていない方は注意。


■脚本の巧みさ


大河を触った人に幸せが訪れるという「幸せの手乗りタイガー伝説」。この伝説を軸にしつつ、主要メンバー5人+2人(1年生の富家とさくら)の姿が描かれています。各人のエピソードはざっとこんな感じ。


・文化祭での出来事から立ち直りを見せる大河
・その大河を心強く思いながらも「大河の幸せ」について考える竜児
・文化祭の出来事もあり、竜児を意識し始める美乃梨
・地元に戻ることを親に勧められる「大人」な亜美
・突然何かを知らされて落ち込む北村
・さくらと幸せになるために「手乗りタイガー」に触ろうとする富家


30分の間にこれだけの話を突っ込んだら、普通はどれも中途半端で訳の分からないものになりそうなもの。しかし、実際に観てみると食い足りなさはまったくなく、コメディーとしてしっかりと面白い。「幸せの手乗りタイガー伝説」という設定もきっちりと絡ませている。後述するように、擬似家族が大河を救うシーンは素晴らしい。さらに言えば、これだけ見事に構成された話が、実は原作にある幾つかのエピソードを寄せ集めて、オリジナルエピソードをプラスしたものだ…となれば、脚本の巧みさに脱帽するしかありません。特に「手乗りタイガー伝説」というエピソードを物語にうまくに絡ませている辺り、よくできた短編小説を読んでいるような気持ちになりました。よくもまぁ、ここまで無理なく、面白く作ったもんです。


■ギリギリな中での純粋なコメディー


文化祭での大河親父事件を経た後で「いつもどおり」の皆が見られる幸福感。それが何より嬉しく、そのために印象に残りました。5人の関係性が徐々に複雑になりつつあるなかで、純粋に「いつもどおり」の関係性の中でコメディーやるのも難しくなってきたところですが、この話ではギリギリのところで5人の関係性の綻びが表面化していません。逆に言えば、それだけに「とらドラ!」という作品の中で大きな意味を持つ話でもないのですが、こうやって5人が仲の良いところを自然に見せるからこそ、その後の関係性の破綻と修復にドラマ性が生まれるのだと思うのです。仲の良いところを見せないで、関係の修復の場面だけを見せられてもしらけますからねぇ。…昔そういう小説を読んだ覚えがあるので、特にそんなことを思いました。


■擬似家族


秋山瑞人版「鉄コミニュケイション」読んで分かったんですが、私、擬似家族的なお話が大好きなんですよw 血のつながりではない「何か」で結ばれた関係性みたいなものを信じたいというか…。そんな個人的趣味もあり、ラストでやっちゃんが放った台詞「うちは3人家族なんだから〜」がもうガツンときましたねぇ。


そして何より、ここに持ってくるまでの展開が素晴らしい。実の父親に捨てられても再び立ち直り、少し無理をしながらでも「いつもどおり」の姿を見せられるようになった大河。そんな大河を見つつ、先述の「幸せの手乗りタイガー伝説」を聞いた高須が「大河自身が幸せになるためにはどうしたらよいのだろう」という超男前(!)発言。そしてその回答にあたるのが、ラストでのやっちゃんの台詞「大河ちゃんをナデナデできて、家族そろって美味しいご飯食べて、それが一番幸せなの〜」。


「幸せの手乗りタイガー伝説」という設定を生かしつつ、傷ついた大河を擬似家族が救う瞬間、そして擬似家族内を包む幸福感が見事に表現されていますねぇ。文化祭のことがあった直後だけに、グッとくるシーンでした。



…そんなわけで、「幸せの手乗りタイガー伝説」という短編小説的なネタを生かしつつ、きれいにまとめた楽しいお話だったなぁと思ったわけです。さらに、亜美ちゃんの「大人〜」ってな話にもきれいに決着をつけていて、構成的にはかなり複雑なものをきれいに締めたなぁと。文化祭以降、ドラマ性のある話が続いたため、どうしても忘れられがちな話なのかもしれませんが、個人的には大好きな話だったので長々と書いてみました。次は21話の「どうしたって」について書くと思います。その後に最近読み終えた原作版の感想を書く予定です。「とらドラ!」話がもうちょっとだけ続くんじゃ。