大森望氏が大絶賛する有川浩氏。
図書館戦争」が本の雑誌で2006年上半期エンターテインメント第1位を取ったのを機に,
「空の中」「海の底」「図書館戦争」をまとめて読んでみました。
以下,順に感想を…。


空の中
「空の中」
ストーリーがとてもユニークです。
空に住む巨大生物「白鯨」と人間達が,共存のために交渉するというアイデア
どこから生まれてくるのやら…。
この交渉シーンが奇妙に面白くて,ワクワクしながら読んでしまいました。
光稀と高己のキャラクターはかなりライトノベルっぽくて,特に光稀はバリバリのツンデレ…。
しかし,これくらい極端なキャラクター設定だったことが,
ともすれば退屈になりかねない白鯨との交渉シーンを盛り上げたのだと思います。

ただ,個人的には子供達のパートがあまり好きになれませんでした。
特に,瞬があまりにも責任感が強いのがちょっと,無理があるのではと思ってしまいます。
幾らなんでも思いつめすぎで,私は感情移入できなかった。。。


海の底
「海の底」
読んだ3冊の中では一番面白かったです。
話の展開はあまりにも予想どおりで,特に潜水艦内部の様子を描いたパートでは,
予定調和もいいところw
にもかかわらず,読ませてしまうところに有川氏の筆力を感じました。

私がこの作品で素晴らしいと感じたのは,描写の濃淡のつけ方です。
この作品では主に潜水艦内部のパートと機動隊のパートに分かれていて,
それ以外にもさまざまな視点から物語が語られます。
そのため登場人物やエピソードの数もかなり多くなっています。
しかし,脇役は脇役として必要な場面でのみ登場させたり,
話の中で役割の終わった登場人物をうまくフェードアウトさせたりしているため,
詰め込みすぎという感じがまったくありません。
話の展開がスピーディーで,本当に読む手が止まりませんでした。

「空の中」に比べてユニークさという点では欠けますが,
話の構成の仕方が素晴らしくうまくなっているなぁと感じさせる1冊でした。


図書館戦争
図書館戦争
うーん…,個人的には微妙です。いや,つまらなくはないですが。
「海の底」で見せた構成のうまさはどこにいったの?というくらい話がまとまっていなくて,
だらだらと話が続いていく印象があります。

前2作でも見せている現実と理想のギャップというか,きれいごとだけじゃないってところは
しっかりと見せているのですが,それも「海の底」の機動隊の描き方に比べれば
インパクトは落ちるしなぁ。

また,敵役にあたる「良化委員会」も,どうしてそんなに必死になって
本を検閲するのかわからない…。
「良化委員会」側の論理の描写があまりにも足りなくて,
有川氏の作品には珍しい,純粋な(ただの?)悪役になってしまっている気がします。

これで有名になってしまうと,有川氏の評価が「所詮はラノベ作家」になってしまいそうで
ちょっとイヤだなあ。「海の底」で有名になってくれればうれしかったのですが。