ネットの書評などをめぐっていたときに,ラノベ作家として高い評価を得ている
桜庭一樹という作家のことを知りました。
いつか彼女の作品を読んでみようと思っていて,まず手にしたのが「ブルースカイ」でした。
本当は代表作といわれている「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」から読めばよかったのですが,
なかなか手に取りにくい表紙だったため,躊躇してしまった…。


結果的に,この作品がきっかけとなって桜庭氏の作品を読むようになりました。
物語の伏線を全然回収してくれないという大きな欠点はあったのですが,
それでも第一部「第一の箱庭」の雰囲気が素晴らしく,
別の作品も読みたいと思わせるだけの魅力が十分にある作品でした。


第一部「第一の箱庭」では,中世ドイツで魔女狩りが始まった頃の話になっていて,
そのドイツの描写がとにかく素晴らしい。
読んでいて,見たこともない中世ドイツの街並が目の前に浮かんでくるようでした。
そして,中世ドイツの風景の雰囲気に,キャラクターが見事に溶け込んでいます。
中世魔術の怪しい雰囲気をまとった謎の祖母,自分の過去がわからないマリー,
美人で優しい,マリーのあこがれであるクリスティーネなど…。
マリーの一人称で彼らの言動が淡々と語られていますが,この語りの淡々とした感じが
作品の不思議な雰囲気を作り出しているように感じました。


以上のように,「ブルースカイ」を読んで,桜庭氏を文章で雰囲気を作り出すのが
うまい作家だと認識しました。
その後,「少女には向かない職業」や「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を読んでみて,
桜庭作品にがっつりとはまったものの,基本的に桜庭氏はライトノベルっぽい文体で
書く人なのだと知りました。
これらの作品は十分に面白かったのですが,
「ブルースカイ」の文体が例外的だったことはちょっと残念に思いました。


と,そのような経緯で桜庭氏の作品を読んでいた私にとって,
一般小説として出版された「少女七竃と7人の可愛そうな大人」は,
「ブルースカイ」で感じた「雰囲気を作り出すのがうまい」という自分の評価が
誤っていなかったと実感させられた作品でした。


この作品では,時代掛かった語り口調で現代の少女が描かれているため,
とても奇妙な雰囲気が作られています。
桜庭氏もその点を意識して書いているとのことで,こうした雰囲気を作るために
狙って書いているということですね。
また風景についても,鉄道模型さえも美しくしてしまうくらい,巧みに,美しく描かれています。


こうした地の文やセリフなどによって作られる雰囲気のよさというのは,
ライトノベルというジャンルにおいてはそれほど重視されていないのでしょう。
桜庭氏の筆力も,ライトノベルでは十分に発揮できていないと思います。
今後はライトノベルだけでなく一般小説も書いていくということなので,
桜庭氏の筆力が存分に発揮されることを期待したいです。