「GOSICKⅢ 青い薔薇の下で」 桜庭一樹

GOSICK〈3〉ゴシック・青い薔薇の下で (富士見ミステリー文庫)

険しい山々に囲まれた聖マルグリット学園。
その広大な敷地の奥の奥に、迷路庭園をくぐりぬけた者だけがたどりつく小さな家がある。
その童話の世界のような場所で囚われの妖精―少女・ヴィクトリカは寂しく、想いをめぐらしていた。
まだ見ぬ書物について。世界の混沌について。そして、とある少年のことについて。
日本からの留学生・久城一弥は、風邪をひいたヴィクトリカをおいて、
ソヴュール王国の首都ソヴレムを訪れる。
姉、アヴリル、セシルのお使い―「青い薔薇」という宝石を手に入れるために。
巨大な高級デパート「ジャンタン」で買い物をする彼は、闇の奥に光る人形の瞳を目撃する。
動き出すマネキン。消える人々。そして、闇の中に蠢く謎。
ヴィクトリカの知恵の泉の手助けなしに独り一弥は謎に挑むが…。絶好調ゴシック・ミステリー第三弾。


桜庭一樹の少年少女向けミステリシリーズ第3弾。
相変わらず,「変な」桜庭作品とは異なり,安定した面白さです。


Ⅲは今までよりもミステリ要素が弱い気がしました。
謎解きっぽい部分がほとんどないような…。
どちらかと言えば,ホラーっぽい雰囲気のほうが強いかも。
まあ,それでもいつもどおり楽しめてしまうわけですが。
なんとなく,謎解き,ホラー,男女のコンビ,という部分から
TRICK」を連想してしまうのですが,私だけでしょうか?


今回,久城とヴィクトリカは離れていますが,
それでも電話を通した二人のやり取りは相変わらず。
また,久城とブロワ警部の微妙なやりとりも良かったです。
しかし,登場人物達のやりとりを見ていると,
読者対象を結構低めに設定しているのかな,とも思います。
そのくせ,同じ富士見ミステリーのレーベルで「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を
出すというのがよくわからんのですがw


謎の人物,ブライアン・ラスコーもちょこっと登場してきて,
今後の展開のほうも気になってきました。
やはりこの作品は,ヴィクトリカの生い立ちなどの隠された部分が
大きなテーマになっていると思うので,
今後もそこに期待して読んでいきたいと思います。
…読むものがないとき,このシリーズはとても手が出しやすいです。
いい意味で,ただ楽しんで読めるので。


と,ここからは「GOSICK」とは関係なく,「小説すばる」に
掲載されていた短編「モコ&猫」について。
GOSICK」が変なところがない作品だとすれば,
「モコ&猫」は,かなり変な作品です。
異常(?)な男性と,ちょっと不思議な女性のお話で,
それも恋愛の話ではない…ような,恋愛の話のような…。


なんといっても,「猫」というあだ名である語り手の心理がわけわからん。
…と思いつつ,所々,わからなくもないというところもあり…。
「猫」はモコ(女の子)のストーカーのようで,実は全然そうでもない。
なにより,ストーカーよりも理解しがたい感じで「気持ち悪い」w
読後感はあまりよいものではないかもしれませんねw
でも,不思議な魅力のある作品でした。


しかし,この作品で初めて桜庭氏のことを知った人がいたら,
まさか女性作家だとは思わないだろうなぁ。
女性作家の書いた「男性」って,読んでいて違和感を覚えることが多いのですが,
この作品は明らかに男性目線できっちり書いています。
もちろん,「猫」に感情移入はできないけれどw


ちなみに,「モコ&猫」の文体は,今までの桜庭氏にはないくらいシンプルです。
今までの桜庭文体というと,ラノベっぽいものか,
「少女七竈…」や「ブルースカイ」のような雰囲気を作るための
文体だったように思いますが,今回はかなり普通に書いている印象です。
まぁ,いつもどおり妙ちくりんな表現などは随所に出てきますが。。。
本当に,ころころと文体を変えられる,器用な作家さんだと思います。