砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

桜庭一樹の原点、青春暗黒ミステリーが単行本化!
どこにも行く場所がなく、そしてどこかに逃げたいと思っていた。そんな13歳の二人の少女が出会った。リアリストの山田なぎさと不思議系転校生の海野藻屑。すべては生きるために、生き残っていくために。


富士見ミステリー文庫版を持っているのに,単行本化されたのがうれしくなって,ついつい買ってしまいました。。。というわけで,せっかく買ったのに読まないわけにもいかず,再読しました。約1年ぶりくらい,かな?


まずは文句から。200ページそこそこで1470円はちょっと高いのでは…。値段見たとき,何か短編か中編の作品と一緒になっているのではないかと思っていたのですが,まさか「砂糖菓子…」だけの掲載だけとはなぁ。文庫の単行本化なんだし,もう少し安くしてくれてもよかったのではないでしょうか。文庫版の表紙を見ても引かない人であれば,絶対に文庫版で買うことをお薦めします。ちなみに,もし私がこの作品を未読で,単行本版と文庫版のどちらを選ぶかと言われれば…,高くても単行本のほうだろうなぁ,やっぱり。
…などど言いつつ,内容については,1470円払うだけの価値はある!と断言いたします。短い作品ではありますが,とにかく完成度が高いです。


構成について言えば,最初の1ページ目でドーンと残酷な事実を突きつけられ,あれよあれよと言う間に読まされてしまいます。この構成の素晴らしいところは,海野藻屑(うみのもくず)に訪れる悲惨な結末を最初から読者に示すことで,この作品が「どうやって藻屑が惨劇に巻き込まれるのか」を描いたものであると宣言していることです。この宣言がなかった場合,藻屑に訪れる結末の悲惨さばかりが強調されてしまい,ただの「ショック小説」になってしまうと思うんです。しかし,宣言があることで,重要なのは悲劇が起きるまでの「過程」なのだとわかります。悲劇が生じるまでの間に,中学生で無力な山田なぎさと海野藻屑が「世の中」と戦いながら,心を通わせていく…。悲劇が起こるまでの間に生じるこの「過程」と,それによる山田なぎさの「成長」こそが,この作品の見所なのでしょう。


また,登場するキャラクターについては,一切の無駄がないというくらいにそれぞれに役割が与えられています。主人公である山田なぎさ,そして海野藻屑はもちろんですが,個人的にはなぎさの兄である友彦や,なぎさの担任教師などの使い方がとてもうまいなぁと思っています。担任が友彦を「くそ貴族」と批判するシーンがありますが,私はこのシーンで,リアリストとして描かれているなぎさが,実は藻屑と同様に「砂糖菓子」の世界に居たことを強く感じました。ひきこもりで,世の中との関係を絶っている友彦の生活はまさに砂糖菓子の世界であり,それを守ろうとするなぎさの考え(高校に入らないで自衛隊で働くという選択肢)は,やはり「実弾」ではありえないでしょう。藻屑ほどではありませんが,なぎさもまた,「砂糖菓子の弾丸」を撃ち続けていた一人だったように思います。


キャラクターと言えば,やはり海野藻屑というキャラクターがとても魅力的ですねぇ。特に今回再読してみて,なぎさ同様,私も徐々に藻屑に「はまって」いく感じでした。転校してきた初日から自分のことを人魚だと言い張り,妙に子供っぽく,嘘ばかりつく藻屑。その姿は,最初は違和感をがあるというか,なんともうっとうしい感じなのですが,徐々に藻屑の事情がわかってくると,どうしようもなく可哀想になってきてしまいます。また,なぎさに対してなんとか気を遣ってあげようとしたり,一生懸命に話しかけようとしたり…といった姿から,その言動などから想像できないくらい,普通の女の子であることも伺えます。なんか,再読前はうさぎを殺したのは藻屑だろうと思っていたのですが,今回読み直してみると,なんとなく藻屑を信じてやりたい気がしてしまいました。なんというか,それまでの言動から見ても,藻屑がなぎさの本当に嫌がることをするとは思えないし(ポチの一件でも泣いて謝っているし),異常な行動を取っているのはどちらかと言えば花名島だし…。まぁ,それはともかく,読み直してみて改めて藻屑のキャラクターの魅力に気づかされました。


そしてなにより,少女二人の描写は妙に魅力的です。まぁ,これは桜庭作品全体にいえることですけれど,その中でもなぎさと藻屑の関係は最も印象に残る組み合わせだと思います。なぎさが複雑な感情を抱きつつも,徐々に藻屑と友達になっていく感じはとてもいいです。何がいいんだかはわからないんですけどw 田舎者で生活は苦しく,兄はひきこもりという平凡な不幸を背負ったなぎさと,東京に住んでいてお金持ちで,アイドルみたいにきれいで,だけれど非凡な不幸を背負った藻屑という組み合わせは,とてもうまくいっていると思います。


ああ,いろいろ書いてみたけれど,どうにも感想がまとまらない。まあとにかく,悲惨な話しで気持ち悪い話ではありますが,なんともいえない魅力のある本だということです。
そしていい加減「大人」である私は,実弾を打っていかなければならないんだろうなぁ。が,頑張って働こう。。。