「涼宮ハルヒの暴走」

夏休みに山ほど遊びイベントを設定しようとも、宿敵コンピ研が持ちかけてきた無理無茶無謀な対決に挑もうとも、ハルヒはそれが自身の暴走ゆえとはこれっぽっちも思っていないことは明白だが、いくらなんでもSOS団全員が雪山で遭難している状況を暴走と言わずしてなんと言おう。こんなときに頼りになる長門が熱で倒れちまって、SOS団発足以来、最大の危機なんじゃないのか、これ!?非日常系学園ストーリー、絶好調の第5巻。


古川日出男氏の「沈黙」は傑作だけれども,読後に疲労感が…。というわけで,軽めの小説を読もうと思い,久しぶりに涼宮ハルヒシリーズを読むことに。期待通り,クールダウンにはもってこいでした。


この作品は「エンドレスエイト」「射手座の日」「雪山症候群」の三つの短編からなっています。このシリーズ,個人的にはSFっぽさが出ているほうが面白いと思っているので,「エンドレスエイト」と「雪山症候群」はそこそこ楽しんで読めました。そういえば,私にとってこのシリーズって,SF入門みたいな感じになっているかも。ハードなSFだと小難しい感じでとっつきにくいけれど,この作品は軽くて読みやすいし,それなりにSFっぽいネタも盛り込まれていますからね。


一つ目の「エンドレスエイト」は,仕掛け自体はそれほど複雑ではありませんが,結構楽しめました。なんか,途方もない数字を出されると,それだけでひきつけられてしまう感じはありますね。それってやっぱり,私がSFに慣れていないからなのかな。
二つ目の「射手座の日」は,完全に長門ファンのための1作という感じですね。このシリーズはSFであると同時に,キャラクター小説であり,学園ドタバタコメディーでもありなので,これはこれでありかと。ただ,私にとってはSFが本命なので,ちょっと物足りない感じもあるかな。


そして三つ目の「雪山症候群」ですが,これがとてももったいない感じでした。途中までとても面白くて,ワクワクしながら読んでいたんですよ。長門にも把握できない事態が発生して,SOS団のメンバーが不思議な館に閉じ込められる…。宇宙人,未来人,超能力者が集まっても原因がわからない謎の館が一体何なのか,とても期待しながら読み進めました。この3人が集まってもわからない状況で,しかもハルヒが関わっていないとなると,やはり情報統合思念体絡みなのか,それとも謎の異世界人でも出てくるのか等,いろいろ考えていました。でも,結局は原因はわからずじまい。今後,徐々に謎が明かされるのだろうとは思いますが,それにしてもちょっと肩透かし食らった感じはありましたね。
また,館からの脱出方法もいただけない。館から出るために,長門が渡した「鍵」がなぜ数学の式でなければならなかったのか,かなり違和感がありますもん。そんなまどろっこしいヒント,普通出さないだろう…。谷川氏がこの定理を作中で使いたかったのはわかるのですが,それなら無理のない形で使って欲しかった。この場面で使うのは,さすがに違和感があります。館からの脱出方法は,もっと納得のいく方法にして欲しかったです。あと,寝ているときにハルヒや小泉の前に姿を現した幻のキョンがどんな様子だったのか,笑い話的な後日談としてもってきても良かったかなぁ,とも思ったり。
といろいろ言いつつも,5巻ではこの「雪山症候群」が一番楽しんで読めたんですけれどね。それだけに,もったいない感じがしちゃいました。


あとはまぁ,キョンの語り口調を久しぶりに堪能できて,それだけでもある程度満足したかなと。2巻くらいから安定してきた感じのあるこの語り口調,結構癖になるんですよね。個人的には「エンドレスエイト」にある「物理的ノーフューチャー」という表現が妙にツボでしたw