「青年のための読書クラブ」

東京・山の手に広々とした敷地を誇るミッション系女子校、聖マリアナ学園。お嬢様学校として名高い学園において、異端者(アウトロー)だけが集う「読書クラブ」には、長きに渡って語り継がれる秘密の「クラブ誌」があった。そこには100年前の学校創立に隠された真実や、学園史上抹消された数々の珍事件などが、名もない女生徒たちによって脈々と記録され続けていた――。
赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞受賞、今もっとも注目の奇才が放つ、史上最強にアヴァンギャルドな“桜の園”の100年間。

「大作」というイメージの「赤朽葉家の伝説」に比べると,この作品はもっと軽い感じ。それほど手の込んだ仕掛けもないですし,人によってはちょっと物足りなく感じる方もいるかもしれません。が,怪しい文体(読書クラブ員の一人称はみな「ぼく」で,口調もなぜか「やぁ」とか「…したまえ」とかw)で怪しい雰囲気を作り上げる桜庭節は相変わらずで,個人的には結構楽しめました。


マリアナ学園の「読書クラブ」を舞台にした5つの短編のうち,一番気に入ったのが4章の「一番星」。おとなしく,おどおどしていて,いつも親友の凛子の陰に隠れてきた十五夜が,ある日を境になぜか学内のロックスターになるというお話です。まぁ,この十五夜がとにかく人格破綻しているというか電波というか,よくわからない奴で,しまいには友人の凛子に対する嫉妬やらを歌にしちゃって無茶苦茶になってしまいます。でも,それでも十五夜を心からは憎めない凛子の気持ちはというのは,なんとなぁくわかるような気がしてしまいました。
もちろん物語だから許せるという面はありますが,十五夜のように電波でむかつくけれど,だからこそ才能があるという人間というのは,どうしても人を引きつける面があるように思います。特に,どちらかと言えば「凡人」である凛子にとっては,非凡なものを持つ十五夜を憎憎しくもどこか誇らしげに感じていて,そのあたりの描写は妙にリアルだなぁと思ってしまいました。なんとなくですが。


あとは5章の「ハピトゥス&プラティーク」ですかね。「紅はこべ」という物語がモチーフになっていて,作中にこの「紅はこべ」の引用文が何度か出てくるのですが,妙に古めかしく,リズミカルな文体がなかなかいい味を出しています。というか,桜庭氏自身がこういう翻訳ものの小説から影響受けているんだろうなぁ,というのがよくわかる感じですw ラストの「習慣と振る舞い」については,ちょっと読者サービスしすぎかなぁとは思いましたが(アザミが学園を去るシーンで終わりでも良かった気が…),この作品の締めくくりとしても,5章はなかなか良かったかなと思います。


ちょっともったいなかったのが3章「奇妙な旅人」。一番悪ふざけがあって,スケールの大きな話でもあったのですが,いかんせん短いだけにディテールが弱かったように思います。バブルでのし上がってきた親を持つ少女達が,古くからの貴族階級(?)が取り仕切る生徒会に対してクーデターを起こすところなんかは,過程も含めて細かく描いて欲しかったなぁ。ばかばかしくも愉快な展開になりそうなのに…。


ただ,全体としてはよくまとまっていますし,楽しめる作品ではないかなと思います。「まぁ,とりあえずは読んでみたまえよ,君」という感じでしょうかw ちなみに新潮社の特集ページはこちらです