「私の男」

消費されて終わる恋ではなく、人生を搦めとり、心を縛り支配し、死ぬまで離れないと誓える相手がいる不幸と幸福。
優雅で惨めで色気のある淳悟は腐野花(くさりのはな)の養父。物語はアルバムを逆から捲るように、二人の過去へと遡る。震災孤児となった十歳の花を若い淳悟が引き取った。空洞を抱え愛に飢えた親子には、善悪の境も暗い紋別の水平線の彼方。そこで少女を大人に変化させる事件が起き……。黒い冬の海と親子の禁忌を、圧倒する恐さ美しさ、痛みで描ききる著者の真骨頂。


なんというか,この作品は苦手だな。確かにすごいのかもしれないんだけれど,私には全然関係のない作品と言う感じがしてしまう…。


私が何で桜庭氏の作品が好きなのか,という理由の一つに,自分とはあまり縁のないテーマでも面白く読めてしまう,というところがあります。その最もたるものが「少女七竈と七人の可愛そうな大人」で,「娘と母親の関係性なんてわかんねぇし,俺には関係ねぇよ!」などと思いながらも,ぐいぐいと引き込まれてしまいました。どこか気持ち悪さを漂わせる不思議な文体と,「鉄道」などのキーワードを使ってまぬけな雰囲気を醸し出すエンターテイメント性のバランスが絶妙なんで,抵抗なく読めてしまったのでしょう。そして,読まされていくうちに,自分にはわからない女性の感覚だからこそ,妙な迫力を感じてしまったり,新鮮な驚きがあったりしたわけです。そういう,私にはよくわからない感覚を,うまくエンターテイメントにして表現してくれるところが,魅力的なんだなぁと思うんです。


で,「私の男」なんですが,これは最後まで「俺には関係ねぇよ!」で終わってしまいました。桜庭氏がとてつもなく女性的な作品を書くことに驚きはないのですが,ここまでストレートに書くかぁ,という感じです。マヌケな感じとかエンターテイメント性だとか,そういう変化球的なものがあるからこそ読めていたものが,ここまでストレートに書かれるとちょっと私には辛い…。もちろん,この作品の評判のよさを見ていると,「ストレートの速さ」にこだわった作品として,成功しているんだとは思います。でも,私にとってはやっぱり関係のない作品で終わってしまうし,これだったらほかの女性作家でも書けるんじゃないか,などとも思ってしまいます。私が感じていた「桜庭一樹らしさ」であるところのヘンテコな部分がなく,どこまでも女性的な小説になってしまっているので,どうにも読みにくいんですよね。


つまり,はなっから苦手な作品なんで,私には正当に評価できませんよ,ということですねw まぁ,他の書評などをみていると評判も良いようなので,楽しめる方には十分楽しめるのではないのでしょうか。ただ,私としては,桜庭氏にはもっと「ふざけて」ほしいんだなぁ。。。